表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
遺跡初探訪編
15/97

岩魔像



 書斎らしき部屋の探索を終えたソリオたちは、左側の壁にある扉の調査に取りかかった。

 ソリオがいつものように扉に取り付き、罠や鍵の有無を確かめる。

 その手際を見ていたトレイルが、ほうと感心したような声を零した。

「なかなかいい手際だな。正直言って、駆け出しとは思えん」

「えへへ。まあ、小さい頃からしっかり仕込まれたからね」

 幼い子供のいなかったソリオの出身地、ヘマタイト村。そんな村でたった一人の子供だったソリオは、村民全員の孫のような存在だった。

 村民たちは自分たちが所有する様々な知識や技術を、たった一人の「孫」であるソリオに先を争うように教え込んだのだ。

 おそらくそれは、村民全員のたった一人の大切な「孫」に、自分のいいところを見せたいとか、自分が知っていることを教えてあげたいという思いからのものだったのであろう。

 そして、その中には罠の調べ方や外し方、鍵の開け方などもあり、好奇心の旺盛だったソリオはそんな技術もどんどんと吸収していった。

「当時はそんなこと全然考えなかったけど、今にして思えば爺ちゃんたち、どこでこんな技術を身につけたんだろうな?」

 ふと手を休めてそんなことを考える。だが、こうして実際に役に立っているのだからその辺りはどうでもいいか、と考えを落ち着けた。

「うん。鍵も罠も大丈夫みたいだ」

「お、そうッスか?…………ふはははははっ!! 次の部屋の一番乗りはこのコルト様がいただいたっ!!」

 嬉しそうに高笑いし、扉を開けてその向こうへと飛び込むコルト。

 仲間たちはそんなコルトに苦笑しつつも、彼女の後を追って扉を潜る。

 先程はそれなりに価値のあるものを見つけたこともあり、扉の向こうにも何かあるのか、そしてそれは何なのかと自然と期待が膨らむ。

 だが、実際に扉の向こうで待っていたのは、この時の『真っ直ぐコガネ』がまるで想像していないものだった。




 扉の向こうは大きめな部屋だった。

 面積的には先程の部屋の倍はあるだろうか。あの部屋が書斎だとすれば、ここは倉庫なのかもしれない。

 木箱や布製の袋などが、部屋の奥に積み上げられている。

 だが、『真っ直ぐコガネ』の目を引いたのはそれではなかった。

 部屋の中央に起立する、全長三メートル近い岩を組み上げたような巨大な人形。

 その岩人形が、まるで奥にある荷物を守るかのように『真っ直ぐコガネ』の前に立ち塞がっていた。

「……ろ、岩魔像(ロックゴーレム)……」

 トレイルの喉から、掠れた声が零れ落ちる。

 それと同時に岩魔像の胸の辺りに淡い輝きが一瞬宿り、入って来た扉が自動で閉まった。

「あれは……」

 ソリオが驚いた顔で岩魔像を見上げる。

 岩魔像の胸に一瞬輝いたもの。それは間違いなく紋章だった。

 形こそソリオの知らない紋章だが、その直後に扉がしまったことから推測するに、その効果は〈遮断〉か〈閉鎖〉といったところだろう。

「……閉じ込められた……か」

 ソリオの呟きを耳にしたトレイルが、素早く扉に駆け寄って開けようと試みるものの、ソリオの言葉通りに扉はまるで打ちつけられたかのようにびくともしない。

「間違いなく、この魔像(ゴーレム)は侵入者撃退用だね」

 魔像。それはクリソコラ文明期の遺跡で時々見られる、魔法の力で動く人形である。

 その役目は創造者の命令により、荷物の運搬から戦闘行為まで実に多岐にわたる。また、製造に用いられた素材によって様々な種類が存在することでも知られていた。

 その能力も個体ごとに違いがあり、これも製造者がどのような能力を与えたかによって決まってくる。

 今、ソリオたちの目の前にいる岩魔像も、倉庫らしき場所に置いてあることから考えるに、その能力は荷物運びか、その荷物を狙った盗賊などの侵入者撃退用といったところだろう。

 ソリオは、扉を閉める能力が与えられていることから、この魔像が侵入者撃退用であると判断した。侵入者の退路を断ってから、その侵入者を仕留める算段に違いない。

 そのソリオの判断を裏付けるように、岩魔像は岩でできた重厚なその足を、一歩『真っ直ぐコガネ』へと向けて踏み出した。




 表情にこそ出さないものの、トレイルは内心でかなり焦っていた。

 それは先輩の冒険者としての矜持。もしもここで自分が焦った表情を見せれば、今回が初めての遺跡探索である『真っ直ぐコガネ』は自分以上に混乱するだろう。

(だが……よりにもよって、岩魔像が相手とはな……)

 トレイルは抜いた剣の柄を握り締めながら、一歩一歩近づいてくる岩魔像を見上げる。

 これまで、彼の愛剣は多くの敵を葬り去ってきた。

 襲いかかってくる魔獣や野生動物。時には自分に害意を抱いた「ヒト」の身体に、この剣を突き立てたこともある。

 だがその頼もしき愛剣が、相手が岩魔像となるとまるで頼りなく感じられてしまう。

 魔像は冒険者ならばいつかは出会う敵の一つである。クリソコラ文明期の遺跡では、遺跡の守護者として配置されていることが多いからだ。

 トレイルもこれまで何体もの魔像と遭遇した。中には、目の前の魔像と同じ岩魔像と戦った経験もある。

 その時は最終的には倒したものの、彼と同様に十分経験を積んだ冒険者が数人がかりでもかなり苦戦を強いられた。

 特に岩魔像のような固い身体を持つ敵は、トレイルとは相性が悪い。彼は力よりも速度で敵を倒すタイプであり、ひたすら固い相手は不利なのだ。

 また、剣や槍のような切り裂いたり突き刺したりする武器は、岩を破壊するには不向きということもある。

 岩を破壊するならば剣よりも戦槌(ウォーハンマー)、槍よりも戦棍(メイス)のような打撃武器の方が効果が高い。今、トレイルが所持している剣では、どれだけ切れ味が鋭くとも岩魔像に効果的なダメージを与えることは不可能だろう。

 幸いにもヴェルファイアが戦槌を所持しているが、駆け出しの彼の技量では岩人魔像が相手では荷が重すぎる。

 岩魔像は動きこそ速くはないものの、その強固な身体から繰り出される攻撃は強烈無比。例えヴェルファイアが防御力の高い板金鎧(プレートメイル)を装備していようが、まともに攻撃を喰らえば一撃で昇天してしまう可能性もある。

 ならば、ヴェルファイアの戦槌をトレイルが使えばいいかといえば、それもそうはいかない。

 ヴェルファイアの戦槌は巨漢の鬼人族(オーガー)が使うに相応しい巨大なもので、小柄な犬鬼族(コボルト)ではまともに持ち上げることもできないのだ。

 ポルテの精霊術もまた、相手が岩魔像ではやや不利といえる。

 彼女が契約を交わしているのは氷精(ひょうせい)であり、氷を用いた攻撃は相手が岩ではその効果を十分に発揮できない。

 岩魔像を相手にするのならば、やはり土精(どせい)などの大地の系統が一番相性がいい。

 つまり。

 この状況での最良の一手は、間違いなく逃走だ。だが、その逃走のための退路も断たれている。

 はっきり言って、これはもう「終わった」状況と言ってもいいだろう。




 『真っ直ぐコガネ』が待ち構える中、間近まで迫った岩魔像がその巨大な右の腕を振り上げる。

「散れっ!! 攻撃が来るぞっ!!」

 予想していたよりも素早い岩魔像の挙動に、トレイルは慌てて散開の指示を飛ばした。

 魔像、特に岩魔像や鉄魔像は高い攻撃力を誇り、纏まっていては一撃で全滅も十分ありえる。そう判断したゆえの指示である。

 彼の指示に従い、『真っ直ぐコガネ』は素早く散開する。ポルテは小さな身体と翅を活かして天井近くまで浮き上がり、最後尾にいたトレイルから見てヴェルファイアが右に、ソリオが左に飛び退く。ふと気づけば、コルトは部屋の隅までいつの間にか移動していた。

 散開した直後、岩魔像の拳が床に叩きつけられる。

 どごん、という轟音と共に、部屋全体が揺れる。見れば、岩魔像の拳が深々と床に突き刺さっていた。

「と、とんでもねえパワーだな……」

 冷や汗を流しながらヴェルファイアが呟く。

 今の一連の動きからトレイルはこの岩魔像が、彼がこれまで見た岩魔像よりも速度も力も上回っていると判断した。

 魔像というものは、制作者の力量によってその性能が変化する。どうやら、この魔像の製造者はかなりの熟練者だったようだ。

 腕が床に突き刺さり、動きが止まった魔像。その魔像にトレイルは攻撃をしかけてみるが、有効打を与えた手応えはなく、代わりに彼の腕が痺れるだけ。やはり剣では効果的な打撃を与えられないようだ。

 ソリオやヴェルファイアもトレイルと同じように動けない魔像に攻撃を加え、ポルテも精霊術で攻撃するものの、ソリオの戦旗も有効打とならず、ポルテの氷の精霊術もやはり効果が低い。唯一、ヴェルファイアの戦槌だけが岩魔像の身体の一部を砕くことに成功する。

 とはいえそれは魔像の表層を砕いたに過ぎない。人でいえば、皮膚の表面が剥げた程度だろう。

 その後もソリオたちは何度か攻撃を繰り返すが、やはり有効打とはならない。そうこうしている内に、魔像の腕が床から抜けそうになる。

「おっとぉっ!! そうはさせないッスよっ!!」

 床から抜けそうな魔像の腕を目がけて、コルトが放った鎖分銅が蛇のように宙を滑る。

 放たれた鎖は狙い通りに魔像の腕に絡みついたが、同時に魔像の腕も床から抜けた。

 床から魔像の腕が抜けると同時に、コルトの身体が宙を舞う。当然のことながら、コルトの力では魔像を拘束できなかったのだ。

 腕に絡んだ鎖など意にすることもなく、魔像が腕を振り回す。それに合わせて、コルトの身体も同様にぶんぶんと宙を舞う。

「ぎゃああああああああああああっ!! 死ぬっ!! 死んでしまううううううううううううううっ!! 降ろしてええええええええええええええっ!!」

 やがて手が滑ったのか、それとも握力が尽きたのか。コルトの手が鎖から離れ、弾かれたように放り出されたコルトの身体が強烈な勢いで壁に激突した。

 ずるずると壁を伝うように床に踞ったコルトは、そのままぴくりとも動かない。

「こ、コルト……?」

 微動だにしないコルトを気にしたソリオが、思わず立ち止まってコルトを振り返る。だが、そこへトレイルの厳しい声が飛ぶ。

「立ち止まるなっ!! 止まったら今度は君が狙われるぞっ!! 酷かもしれないが、あれではもう……」

 魔像から目を離すことなく、トレイルは横目で動かないコルトを確認する。

 あれだけの勢いで壁に激突したのだ。どう考えても全身の骨が砕けるか、内臓が破裂しているに違いない。

 どちらにしろ即死。かつての冒険で似たような目にあった冒険者の末路を思い出したトレイルは、常識的な判断を下した。




「お、おい……まさか、本当にコルトは……」

 ソリオの傍に駆け寄ったヴェルファイアが小声で囁く。いくら正体が不死身──正確にはもう死んでいる──骸骨(スケルトン)とはいえ、その骨自体が砕ければ無事でいられるとは思えない。

「……俺にもそれは分からない。でも、やらなくちゃならないことなら分かる」

 ヴェルファイアにそう答えながら、ソリオは決意を秘めた視線を岩魔像へと向ける。

「あいつを、倒す。力を貸してくれ」

「おう。もしかするとコルトの弔い合戦かもしれねえからな。何でもやってやるぜ!」

「もちろん、私も協力するわ」

 いつの間にかソリオたちの傍まで降りてきたポルテが、目に涙を浮かべつつも決意に満ちた声で言う。

「よし……。やろう! 『真っ直ぐコガネ』の戦い方を見せてやるんだ!」

 人間族(ヒューマン)、鬼人族、小翅族(ピクシー)。種族は違えども、同じ思いを秘めた六個三対の瞳が、戦意も露に強敵である岩魔像へと向けられた。




 『無敵の盾』更新。


 今回はいきなりの強敵との遭遇。

 某TRPGでは、明確に武器の特性が定められております。「刃物の武器ではクリティカルしない」というルールもあったり。そんな辺りを今回取り入れてみました。

 どんなに強い人物でも、相性というのは必ずあると思います。上級者とはいえトレイルと岩魔像では、圧倒的にトレイルが不利な組み合わせです。

 次回、上級者でも手を焼く相手に、『真っ直ぐコガネ』が挑みます。


 では、次回もよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ