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副業、兼業、大剣豪!  作者: Tametomo
第二章 相原家の依頼編
9/10

美味い話には裏がある

「そこ!構えがなってませんよ!」


豊五郎が前に立ち声を上げる。

恭子も自ら構えを指導している。


ここはいつもの道場ではない。

広めの敷地に、上を見上げれば天守閣が見える。

ここは相原家の城、小田原城の内である。


恭子は相原家にて兵法指南を行っている。

ここで言う兵法とは孫子などの軍学ではなく、剣術などの武術のことである。

相原家当主の幹康にその実力から是非にと乞われて指南を行っている。

恭子自身は家臣ではないが、有名な大名に指南する事は流派の名を上げることになるという利点がある。

家臣たちが集い、また当主本人も参加するこの指南は熱心に行われている。


二時間ほどの指導の後に。


「それでは本日はここまで。」


「「ありがとうございました。」」

例のごとく終了の挨拶をした。


さあ帰ろうかと思っていた時、幹康がにこやかに笑って近づいてきた。


「本日も熱心なご指導ありがとうございます。」


「いえ。こちらこそこのような機会を設けていただきまして感謝しております。」


「本日はお疲れでしょう。お弟子さんと一緒に夕食でも。」

顔は笑っているが、その瞳が断ってはならないと告げている。


「…ええ。それではご馳走になります。」

嫌な予感がするが、受けることにした。

案内されて城の中へと連れられて行く。



当主の部屋は最上階で静かなものだった。

「夕食だ。」

幹康がそう言うと食事が三膳運ばれてくる。

伊勢海老、鮑などの見事な海産物と、新鮮な野菜を用いた料理たちが山と運ばれてくる。


「さあ。頂くとしよう。」


「頂きます。」

「いただきます。」

嫌な予感は更に強まった。呼ばれた理由はろくなもんじゃないのだろう。


「それで、私たちを食事に招いた理由を教えて頂けませんか。」

恭子はさっさとそう問う。


「いやぁ。いつも世話になってるからね。」

全くそれが理由には聞こえない言葉。

恭子は一つ溜息をついた。


四十にして相原家最大の版図を築いた幹康。

何故それを為し得たのか。

一つは経済重視の政策。農業のさらなる振興だけでなく、商業に目を付けた先見の明。

もう一つは新たな資金源として貿易に目を付け、ここでも大きな収入を得た事。

そして最後のひとつは、当主幹康自身が謀略を得意とし、その策によって自らの被害を最小限にしているからだ。

つまりはこの男、油断ならない。

恭子と豊五郎は幹康の事を剃刀と呼んでいる。

一つは先述したように頭が‘切れる’から。

そしてもう一つは煮ても焼いても食えないからである。


「本当にそうならどれほどありがたいか。」


「恭子さんには隠し事は出来ないな。」

…白々しい。


「その前に…。君たち席を外しなさい。」

そう言うと天井裏の気配が消えた。

護衛の忍び、影組の皆さんである。

幹康の謀略を支えた者たちである。


「ふぅ。これで内緒話ができるね。」

…四十のおじさんが内緒話とか言わないでほしい。


「で、お話とは?」


「せっかちだねぇ。あまり生き急がない方がいいよ。」


「もう影組の皆さんはいませんよ。」

恭子が言う。


「分かった。じゃあ単刀直入に言うよ。お二人には家臣の謀反の噂を確かめてほしい。」

急に真面目な顔になった幹康は爆弾発言をした。


「謀反ですか。」

豊五郎が驚いたように言う。

「穏やかじゃありませんね。…でもどうやって成功させるつもりなのでしょうか。ここほど謀反が難しいところはないでしょう。」

恭子が真剣な顔で言う。

謀略を得意とする幹康。自らがその被害を熟知している故に対策も十分だ。


「確かに小田原城から周辺の城までは近くて連絡も密だ。不用意な行動を取ればすぐに潰される。それに影組もいる。察知したならすぐに首が飛ぶ事になるだろう。」


「この状態で謀反なんて不可能じゃないですか。」

豊五郎が言う。


「恭子さんはどう思います。無理ですか?」


「無理なら私を呼ばないでしょう。この状態で謀反を成功させる方法はあります。」

恭子はそう言う。


「で、でもどうやって。」

豊五郎が無理だとばかりに言う。


「簡単な事だよ。周辺の城から軍勢を寄越すにはさすがにある程度の時間差がある。軍勢が到着前にこの小田原城を完全に掌握すればいい。」

恭子は至極あっさりと言う。


「影組はどうするのですか。この城にかなりの数が常駐していますよ。」

豊五郎が聞く。


「これも簡単だよ。影組は確かに多くの武術を学んだ強い集団だけど、自らが対応できない攻撃には無力だよ。だから私たちを呼んだんだ。」


「陰陽術…!」

豊五郎がはっとしたように呟いた。

陰陽術で騒ぎにならないように事前に幹康には私たちの術の事を伝えてある。


「その通り。陰陽術は実践的な戦には使いにくい。術が小規模で大軍を相手にするには霊力が不足するからね。でも城内で起こす謀反ならば戦闘は小規模で済む。陰陽術も大いに有効だろうね。」


「影組にも一人陰陽術の使い手はいる。だが数が圧倒的に足りない。攪乱されれば終わりだ。」

幹康も静かに言う。冷静かつ客観的な答え。


「厄介事ですけど聞いてしまった手前やるしかないですね。」

重要機密の話を聞いて断れば暫くして海に二つの死体が上がる事だろう。


「助かるよ。」

諸悪の根源、大狸の幹康がそう言って笑う。


「私たちは一体どうすればいいですか。」

恭子が聞く。


「そうだな。謀反の防止、もしくは発生してしまった際に被害を最小限にとどめる事を頼みたい。

時間もなさそうだ。十日ばかり兵法指南に来てもらおうか。機会は用意するから調べてくれ。」

幹康の言葉は頼りないものだった。


「中々厳しいですね。では謀反の噂の情報を教えてもらいましょうか。」


「わかった。あくまで噂ではあるんだがな。」



かくして恭子と豊五郎は不幸にも相原家を揺るがす(かもしれない)事件に巻き込まれた。

白山の一件より八日後の事であった。

今回より第二章、相原家の依頼編が始まります。

一章に比べて少し戦国っぽいお話になる予定です。

今回は危険な香りのする厄介事です。

藤堂流の二人は無事に切り抜けられるのでしょうか?


誤字脱字、ご意見、ご感想などありましたら宜しくお願いします。

作者のやる気につながります。

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