彼と彼女と御見舞い品
風に揺れる白いカーテン。
窓の向こうは雲一つない青空だ。
ああ、今日も平和だなぁ。
彼が小さく欠伸をして、微睡みに身をまかせようとした、その瞬間だった。
「失礼しまーす。やっほー。来たよー」
彼女がやって来たのは。
***
「だって、病室に鉢植えは根がつくから駄目って言うでしょ」
彼は、目の前の『それ』を凝視しながら、生返事を返す。
「……ああ」
「でも、私、切り花は嫌いなの。だって、アレ、花の死体よ。病室に花の死骸! そっちのほうがよっぽど縁起が悪いわ」
彼は、熱弁する彼女に苦笑しつつ相槌を打つ。
「……全国の花屋に喧嘩を売っているとしか思えないけど、まあ、そうだね」
「食べ物は病状次第では意味ないし。品物を贈っても、好みがある上に、処分に困ってむしろ迷惑になる可能性があるわ」
彼は、目の前のそれが入った容器を見ながら、これもある意味『物』では? と首を傾げながらも、同意する。
「……それはそうだけど」
「だから、私、頑張って考えたの。後腐れが無くて、貴女の病室を和ませてくれて、根っことか、好みとかが無いものを」
彼は、しげしげと、それを眺め、しぶしぶ頷く。
「……確かに、コレが好きだとか嫌いだとかいう話は聞いたことが無いな」
(……和むかは謎だが)
「でしょ! しかも、文部なんとか省公認の教科書に載るほどポピュラーなのよ!」
なんとかじゃなくて科学だよ、と指摘しながら、彼は記憶を漁る。
「……そういや、載ってたな。中学校のだったか?」
「手間もかからないわ。一般人向けの育て方の本はなかったけど、多分、水やりだけでいいと思うの」
世話ってやっぱり僕がしないとだめなのかな、と彼は顔を引き攣らせた。
「……あんまり、これの世話の仕方の本ってなさそうだな。学術書ならともかく」
「ってか、普通ないだろ、一般人向けの
『ミドリムシ』
の育て方の本なんて」
「なによ。文句ある?」
唇を尖らせた彼女に、彼は引き攣った笑いを浮かべる。
「……ありません。はい」
「飽きたら病院の池に放してやってね」
彼の脳内に、自分の未来像が浮かび、小さく呟く。
(『どうしたんですか』『いや、ミドリムシを放しているんですよ』『そうですか』 『ええ。ハッハッハ』)
「……次は、精神科行きかな」
「ところで、どうしていきなり倒れたの? 救急車で運ばれたって聞いて心配したのよ」
心配げに彼を覗きこむ彼女に、彼は苦笑を浮かべた。
「……いや、腐った(君のバレンタインのチョコっぽいけどなんか色々入っていた)ものを食べたのがいけなかったみたいで」
作者の気が乗った時、ネタが思い浮かんだときに不定期更新します。