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終末喫茶  作者:
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スパイの話

ここは、終わる人が来る喫茶店。人三人がカウンターに名レベルほどの小さなカウンターだけがある小さな喫茶店、もはやバーである。マスターの名前は横須賀、横が苗字である。

ここに来る人は全員、人生の選択肢が迫った時に来る。いや来てしまう。



「...ここはどこだ?」

俺は気づいたら知らないところにいた。確か最後の依頼に行こうとしていたのだが...

「おや、今回のお客様ですか?」

いきなり背後につかれた。慌てて飛びのき声の方向を向く。そこには身長が高い男性が立っていた。同業者としては筋肉の作りがなってない。しかしそんな奴らいくらでも見た。真の暗殺者は油断をしない。

「...何者だ?答えろ。」

「私は横 須加。この喫茶店のマスターです。この喫茶店はバックルームのような、ハブ空港なものと話す。ここは生き物が一回は通るところであり、重大な決断を迫られるときなどに、ここに迷い込むんです。」

よく見たらここは喫茶店だ。この横須賀というものは、怪しいことは変わらないが嘘はついていないらしい。

「すみません。あなたの名前を知りたいのですが......。計簿に必要なものなんですよ。『○○さん、○○を注文』という感じに。」

「いや、何も飲まん。毒が入っているかもしれない。名前も言わん。」

「そうですか。しかしまぁなんですから。ささ、座って。」

「妙にへりくだった言い方で願うな。だがすぐにここを出る。間違って入ってしまったようだ。すまない。」

そう言って扉を開けようとする。しかし扉は開かない。鍵穴はないのに。閉まっているというより、外側から抑えられている感触だった。

「ここからは出られませんよ。」

「....何だと。出られないのか?」

「はい。なのでまず一服...」

話の途中だったが持っていた仕込みナイフを彼の首元につける。

「今から言うことはお願いじゃない。命令だ。出せ。」

「いえいえ、私を殺しても出られませんよ。あなたはここで決断をしなければいけません。」

「?決断?」

「はい。決断。」

よくわからないが、出られないのも事実だ。ここはおとなしくこいつの話に乗るほうがいいだろう。

「わかった。決断すればいいんだな。それで?俺は何を決断すればいいんだ?」

「それは私はわかりません。あなたしか知らないのです。」

「あ?」

「その感じ、自分が何を決断すればいいのかわかっていないようですね。このままでは埒があきませんね。とりあえず話をしましょう。そしたら私もわかるかもしれません。」

「なんだと?お前は俺を監禁するのが目的ではないのか?」

「ふふふ。私にそんな性癖はありませんよ。」

腹立つ野郎だ。警戒しながらすぐ近くにあった椅子に座る。

「で?何を話せばいいんだ?俺は。」

「そうですね..。では、何をする途中で迷い込んだのですか?」

「俺はとあるものを暗殺しようとしていたんだ。目的地に向かう間に迷い込んだんだよ。」

もっと詳しく言えば、ボスの部屋から出ようとドアを開けた瞬間、迷い込んだ。ずっと使っていた道だ。間違えるはずがない。これは夢の一種なのか?

「それは、誰で?」

「....まぁ問題ないか。D社の松居というやつだ。そのD社の工作員さ。どうやらD社の情報を他社にばらまこうとしているらしい。」

「おや?ならばそのまま逃がしたほうが...、泳がしたほうがよろしいのでは?」

「俺もそう思うが、上からの命令だ。俺は従うだけだ、余計な考えはいらない。多分、莫大な金を使ってまで依頼してきたんだろうよ。」

「それはそれは。大変そうですね。スパイ同士の戦いなんて、映画一本作れるんじゃないですか?もしかしたら第二シーズンとかいっちゃうかも。」

「完遂して見せるさ。これが最後の仕事でもあるからな。」

「ほう。最後の仕事だと?」

口が滑ってしまった。どうやら俺はこの場所は落ち着くらしい。アロマなどないのに。この場所の特性か?考えれば考えるほど不思議な空間だ。

「....ああ。この仕事を終わらせれば、俺は社会に出れることになっている。親元を離れることになるのさ。」

こいつと話しているだけなのに、なぜか自分語りが止まらない。

「ずっと会社の中にしかいなかったからな。憧れていたんだ。一人暮らし。準備とかは会社側が負担してくれる。今までの功績のお礼だとさ。」

「それは楽しみなんですか?」

「....なぜそんなことを言う?」

「いえいえ、そんな睨んだ目で見ないでくださいまし。ずっと会社にいたんでしょ。ずっと慣れているところにいたくはないのですか?私が言えたことではないのですが、一人暮らしは案外きついと聞きますよ?」

「そうかもな。だが、俺は一人暮らしという自由に憧れているんだ。好きな仕事をし、好きなものを買い、好きなことをする。税金だとか法律とかに縛られていようが、不自由な自由ほど願ったものは今のところない。....決して今の仕事に不満があるわけではないぞ。」

「上とかは目指さなかったんですか?会社の上に。後輩とかできたかもしれませんよ?」

「考えたことなかったな。....いや、それでもだな。」

こうしていくと、自分がどれほど一人暮らしに憧れていたか、自分でもわかってしまい、少し恥ずかしさまで感じてしまう。しかしあいつは、彼は笑わずに落ち着いて聞いてくれる。人に話したのは初めてだが、こんなにも真剣に聞いてくれるとは思わなかった。

「あんた、優しいな。」

「おや。そうですか。前回のお客様には『血も涙もないのね』とか言われましたが。」

「そいつは見る目がないな。........というかほかに客が来たのか?」

「はい。ここは主に決断を迫られた人が来るところなので。まさか自分の夢とか思っていましたか?」

「....正直まだ思っていた。」

彼は微笑む。しかし、こんなに話していたが、俺はまだ自分が何を決断すればいいのかわかっていない。おそらく時間については気にしなくてもいいと思うが、早く出ることに越したことはない。 

「そこまで悩んでしまう理由は何ですか?」

「え?」

「いやね、あなたは一人暮らしを望んでいる。しかしその実、あまり乗り気でもないようにも見えます。それはつまり、あなたを雇っている会社に何か並々ならぬ思いを持っているからでしょう?それは何故かなと。」

一瞬、イラっとした。自分が操らわれている、だまされているように言われた感じがしたからだ。だが、おそらくこいつはそういう言い方しか知らないもだろう。自由を知らない自分と同じだ。

「....俺は親の顔を知らない。初めて見た景色は駅のロッカーだったらしい。捨てられたんだよ。俺は。会社のトップは....あの人は俺の命を救ってくれた恩人であると同時に親の代わりでもあるんだよ。あの人のためだったら死ねるね。それにほかの人にも色々優しくしてもらっていたからな。」

「まさか一人暮らしをする理由も本当の親に会うため....?」

「いや、本当の親は殺した。暗殺対象だったからな。」

「それは、すいませんでした。」

「いや、大丈夫だ。」

「いえそうではなく、」彼は続けた。

「おそらくそのお母さんとやらに会っています、私。『誰か私を恨んでいるんだわ、思い当たりしかないんだもの!。』と言っていました。あなたの面影とかを見るに、おそらくは母でしょう。」

少し驚いた。

「ここはハブ空港のようなものでして、ってこの話もうしましたね。『血も涙もない』といったのも彼女なんですよ。」

「........俺のことについて何か言っていたか?」

「いえ、何も。」

「そうか。あいつらしいな。」

正直ほっとした。何か俺のことについて言っていたら少し涙が出そうな雰囲気だったからだ。

「....まあ話を戻すが、気づいた時には会社の歯車の一部となっていたんだ。悪い気はしなかったし。そういえば、あんたはいつからマスターだったんだ?」

「?私ですか?私のことについて聞いてきたのはあなたが初めてですよ。あまり面白くないですが、秘密ですよ。」

彼は一呼吸おいてからつらつらと話す。

「私は昔客人でして、そもそも病室に寝たきりだった小さな子供だったんですよ。あの時代では不治の病でして、もう死にそうなときにここに迷い込みました。先代から今までの人生を聞かれ、最後に二つの選択肢を与えてくれました。『5分後にあなたの両親が来る。それまで生き、感謝を述べるか、今死ぬか。』と。私は決断をしました。第三の選択肢、ここに残るということに。私はまだ目的がありました。それは私の今までの人生では到底できないことでした。なので残ったのです。まぁ実質、『今死ぬ』の選択だったんですけどね。」

なるほど、妙に人をからかうような言い方だったのはあまり人と関わってきて来なかったからなのか。そしてここに居残ることになると死ぬことも分かった。やはりここから出なくてはいけない。

「そうか。ずいぶん大きな選択をしたんだな。」

その瞬間、扉が開いた。自分は何かを決断した。だが依然、何を選択し決断したのかはわからなかった。しかし段々と意識は薄れ、視界はもやがかかったように見えなくなっていく。

「いえ、あなたと比べれば些細なことです。」

あいつが最後に言った言葉が妙に心に引っかかったまま、自分は眠るように意識をなくしていった。



結局昨日の夢のような出来事は何だったのだろう。ホテルのベッドで考えていた。今は情報屋の女からターゲットの居場所を聞いたところだった。

「あんた、行ってしまうのね。最後にもう一度熱い夜を味わわない?」

そんなことをしていたら明後日になってしまう。俺は無視してその場を立ち去る。どうやらターゲットは国内の××県の山奥の屋敷にいるようだ。確かに正しい判断だ。もし俺も同じ立場だったらそうしていた。だが行く時に車を使うのは間違いだな。速攻ばれてしまう。俺は電車を使って急いで向かう。駅から山までは歩きだな。


奴は常に警戒していた。同じ成合だからわかる、一瞬の隙もない。しかも報告書には一人しか書かれていなかったのによく見たら仲間もいるじゃないか。珍しいことではないが、二人三人ではなく十数人いる。よく集められたものだ。さてどうしたものか。手っ取り早いのは一人ずつだが、二人目くらいでばれそうだ。ならば一気にだな。あの屋敷の背後には崖がある。おそらく侵入口を絞らせるためだろうが、それは悪手じゃないのか?


あとはこのデータをUSBに転送したら終わる。これであの会社も潰れるな。

「見張り、大丈夫か?」

「はい、問題ありません。」

会社を辞めてからこの作戦を始めたから、会社にはばれていないとは思うが、どこで漏れるかわからない。追手が来ることは明白だ。だが、このUSBにデータさえ入れば、あとは死んでもかまわない。新聞会社にこの場所は知らせてある。USBを隠すから探すよう伝えてある。死体に過度にビビらなければ探し当ててくれるだろう。

あの会社は鬼だ。何がホワイト企業だ。俺の同期はもういない。全員死んだ。しくじったからじゃない。人件費削減のためらしい。そんな理不尽が受け入れられるわけがない。だが上は金を使って黙らせる。逆らうやつは始末する。だが俺はやっぱり納得できない。だが数十人が逆らおうがたかが知れている。だからこの事実をほかのものに伝えて内部構造をばらすことにした。これは復讐ではない。反逆だ。せいぜい怖がるがいい。

「お前ら、見ていてくれ。奴に少しでも恐怖を植え付けてやるからな。」

「素晴らしい考えですね。」

「!!」

いつの間にか聞かれていたようだ。しかし振り返るとそこには、見張りのうちの一人だった。

「あぁ、聞かれていたか。」

「そういえば、追加の物資が届きましたよ。」

「む、追加の物資?」

「はい。あなた宛てに。」

「....私は何も頼んではないぞ?」

「え!じゃああれは.....。ちょっと見てきます。」

そういえば何かおかしい。足音一つ聞こえない。普通は巡回している奴らの足音なり、防具がぶつかり合う音がするはずなのに。それに今行ったやつの足音ももう聞こえなくなった。早すぎる。

「....いるんだろ?」

その声は静まり返ったアジトで響くだけ。反応はない。

様子を見に行こうとした瞬間、鋭い殺気が後ろから発生した。構えをとったがどこにもいない。しかし今までの経験と勘が言っている。もう、おそらく逃げられない。


入り方は簡単だ。奴らは出入り口は一つしかないゆえ、もし敵が来るならほかの潜入を試みると思い込むだろう。よって唯一の出入り口の警備は薄くなり、ほかの可能性があるところ、通気口や窓付近に分散される。ならば正面突破だ。ごり押しのように見えるかもしれないが案外こういうのが正解だったりする。さて、音を出さずに始末していたがやはりバれるか。同じ様な職業についていたからか、一筋縄ではいかないようだ。相手も構えを崩さない。伝わっていたのはターゲットの暗殺。しかし八の目線や構えを見た感じ、何かを庇っているようだ。サービスだ。何を隠しているかわからないが、場合によっては壊しておこう。


PCに目を向ける。まだダウンロードには時間がかかる。何分稼げる?何分かかる?しかし今は前の敵に集中しなくては。せめて転送が終わってから来てほしかったものだ。いるのは確実。しかしもともと電気をつけなかったこともあり奴の姿がはっきり目視できない。すぐにPCを壊さないところを見るに、おそらく上は俺が何をしているかまでは知らないはず。『怪しい動きをしているから始末してほしい』という依頼だと考えられる。ただあいつが融通の利くものだった場合、即、壊されるだろう。俺がやるのはあくまで時間稼ぎ、ばれないように耐えればいい。


勝負は一瞬だった、ともしほかの目撃者がいたら言っていただろう。持っている短剣でアキレス腱あたりを切り、馬乗りになっていた。ターゲットは苦しいうめき声をあげながらもこちらを見ていた。しかし、俺は負けたな。奴は急所という急所を攻撃できない体制に構えていた。アキレス腱を切ったが、むしろ切らされたのだ。自分もまだまだだなと思った。だがこのスキルを使うのも今回で最後だ。ナイフを首に振り下ろそうとした瞬間「終わると思っているのか?」というターゲットの声が聞こえた。いつもはスルーして首を描き切っていた。しかし今回だけ、腕が止まってしまった。


しめた!奴は俺の最後のあがきを聞いている。このまま時間を稼いでやる。

「どうせいつかこの仕事を降りたいとか思っているんだろ?だが無理だぜ。なぜかって?俺たちは基本的に捨て駒さ。いくら信用されようが、いくら懇願しようが、もし自分の不利益になるなら消されるんだ。ずっと俺らは首輪をつけられるんだ。ずっと俺らは人生ゲームの駒なんだ。どう頑張っても逃げられない。俺もおそらくそうさ。隠された闇を売ろうとしたらこうなった。生まれた時からペットなんだよ。…いや、害獣なんだよ。」

「........」

「でもなぁ、俺らは残念ながら知能がある。思考ができる。ずっとお縄につくことなんかできないんだよ。あんただってそうだろ?理不尽と思ったことはないのか?仲間が命令に従いながら無残に死んでいき、感謝を述べない上が憎いと思ったことはないか?」

奴の心情は揺らいでいる。もしかしたらこのまま仲間にできるかもしれない。このまま何とか....。

「このまま縛られたままでいいのか?多分、お前の戦闘力なら転覆だって夢じゃないぜ!どうだ?このまま俺を逃がしてよ。」

奴のナイフが下りていく。もし足が万全だったらこのまま逃げることだって可能だろう。奴は俺に馬乗りしたままナイフを投げ捨てた。このまま....


馬乗りになりながら、ターゲットから離したPCを音だけで聞き取る。排熱がうるさい。おそらく何かを読み込んでいるか転送している。もしかしたら助けを呼ばれているかもしれない。一応壊しておこう。持っていたナイフを投げ、PCを壊す。その瞬間ターゲットがが叫んだ。

「貴様ぁぁ!」

さっきまで懇願していたやつがこれほどの声量が出せるのかと少し驚いたがなるほど、足を狙わせたのはこれを意識からそらすためだったのか。しかし手順が一つ増えただけだ。

「それはあんたの問題だ。」

手刀でターゲットの首を折る。いつもはそのまま殺していた。だが今回だけは彼の言葉に耳を貸してしまった。何か思うことなど何もないはずなのに。まぁもう終わったことだ。ほかに残党がいないかを見て、帰るとしよう。


いつものように仕事をしていつものように帰る。そして新しい生活を迎えにいく。なぜだろう。不安だとは思うが怖くはない。未知なるものへの対峙、おそらく初めてフグを食べた人もこんな気持ちだったんだろう。そのせいか、今までの殺しよりも無駄に達成感がある。そんなことを思っていたらいつの間にか上様の部屋の扉の前にいた。ノックをして部屋に入る。上様が机越しにしわって資料を眺めていた。

「始末してきました。」

「おう、よくやってきたな。出費は?」

「特にありません。せいぜい、そこに行くための交通費だけです。」

「全く、お前は金がかからないで助かるよ。さて、報酬を渡さなくては。さてさて今回は。........そうか、今回が最後だったな。」

「はい。」

「思えば私は小さい頃のお前をずっと見てきたが、時間は残酷だな。もう巣立ってしまうのか。」

「....はい。」

まさかこんな言葉がもらえるとは思わなかった。『それじゃあ、荷物はここにあるから、ここにいきなさい。』みたいにさばさばして終わると思っていたのだが、まさかこんなことになるとは。少ししんみりしてしまう。

「だが束縛はしない。身を削る者たちに望んだものを与えるが私のモットーだ。」

上様は椅子から立ち上がり、俺の目を見つめる。

「伝統だからやらせてくれ。....これにて!彼、F!偽名、風見 啓介はここ!上田会社を卒業する!今までの勤務!感謝する!以上!」

これで、終わりか。


「ここの大家にはもう話は通してある。そしてこれが身分証明書とパスポート、銀行口座だ。それとお前の家....『元』家だな、その他日うような生活グッズもキャリーバックに入れておいた。」

さすが、もうほとんど用意してくれている。しかし一人暮らしの準備がこんなに簡単でいいのだろうか?どこか申し訳ない気がする。

「もう一度言っておくが、ここから出ていったら、もう二度と戻れない。もしFが会社に入り、経営顧問などになり、こちらに商業目的で話をしようとしても一切受け付けない。連絡もできない。こちらとしても心苦しいが、会社の安全のためでもあるんだ。許してくれ。」

おそらく今回のターゲットのようなことが起こらないようにするためだろう、言わなくてもわかる。まぁ俺はそもそもそんなことする気もないのだが。

「ほかに質問はあるか?」

「いいえ。ありません。」

「全く、お前は本当に手がかからないな。これは私からのサービスだ。お前はよく働いてくれたからな。」

渡してきたのはお守りだった。意外だった、というより拍子抜けした。あんなに偉大な人が渡してくれたのが、護身用の銃とか、少し気味が悪い(上のセンスは独特なのだ)ネックレスとかではなく、お守り。しかもおそらく近所の神社から買ったものだ。でも俺はうれしかった。お金以外に、手渡しでもらえたものはこれが初めてだったからだ。だめだ。目頭が熱くなる。

「一応家内安全・出世成功のお守りだが、まぁ間違えてはいないだろう。それじゃあ、頑張れよ。」

「はい。ありがとうございました。」

部屋から出る扉に向かいながら今まであったことを思い出す。初めて会社内で裏切り者が出た時のこと、思えば私の最初の汚れ仕事だった。会社がハッキングされたこと、このときにPCの使い方を学んだ。初めて上様に意見を言ったこと、この時に一人暮らしを望んだのだった。そういえば、結局マスターが言っていたことは何だったのだろう。けっきょくわからなかったな。こういうのは忘れたころに来るからな、用心しておこう。



「おや。入ってきましたね、おかえりなさいませ。二回目ですね。」

........またここにきてしまったようだ。

「どうぞ、お客様。こちらに。」

「........で?俺は次は何を決断すればいいんだ。」

「いえ、今回は違います。今回は気ついてもらう必要があります。」

「なにか....違うのか?」

「一番手っ取り早い話、そこに鏡があるので見てもらいますか?胸のあたりを。」

そう言われて扉のすぐ横にある鏡に向かっていく。ところでああいうのは姿見というんじゃないか?

「ここにくるお客様には二種類います。一つ目は人生が変わるような決断に立ち会ったとき。神様が与えてくれたポーズ機能のようなものですそしてもう一つは....」

鏡を見て思考が止まった。胸のあたりに小さな穴が開いている。俺はこの傷口を何度も見たことがある。これは銃弾で撃たれた後だ。

「自分が気付いていない時に死んでしまったとき。」

足がおぼつかない。呼吸が荒れていく。何もわからない。

「あなた、走馬灯を知っていますか?死期が近いとみるあれですよ。しかしおかしいと思いません?老衰とかならともかく、例えば事故死。即死した時にも見るものなのでしょうか?もし見れたら、それは一種の未来視とは思いませんか?ああ、少し話がそれました。その走馬灯の正体はこれです。ここで大体の人は人生の振り返りをするんですよ。それが走馬灯として現実世界で表されるんですよ。」

気づいたら奴の首元をまたつかんでいた。

「まだ間に合うはずだ。俺はどうやって殺された?いつ....」

「死んだんですよ。もう。つまり順序が逆なんですよ。死ぬから見るではなく、死んでから見るのです。死ぬ前に見たのは、思い出の掘り起こしとか、夢に似たようなものです。あなたはもう死んだんです。」

もう死んだ....

「誰が殺した。なんで殺した。お前はわかるんだろ?違うと言っていたんだからな。」

「それはあなたが考えなくてはいけないのですが」奴は少しあきれながら口を開けた。

「少し、うすうす、わかっていたんじゃないですか?」

....はっとして奴を離した。こういうのは誰かに手伝ってもらわないとなかなか答えは出てこないもんだな。そうだ。俺は....組織から抜けたものは、口封じのために殺される、同業者に殺されると。今までそれを自分がやってきたから。自分は逃げられるわけないと。上様からもらったお守りを握りしめる。機械のようなものが壊れた音がする。やはり、盗聴器かGPSのようなものが入っていたんだろう。家を用意してくれたのももし逃げた時に、逃げる当てを絞るため。口座番号を知っていれば、金の流通を止めて足止めもできる。すべて、用意されていたのだ。

「わかっていたのですね。しかしあなたは生きるために戻ることを選ばず、死ぬとわかっていても活きるために進み続けた。私にはできないことです。なぜそれを選べたのですか?」

自分が自分にうそをついてきた理由、その答えはすぐに出てきた。

「それでも上を信じたかった事、もし死んでも今まで自分を育ててくれたことを考えればそれほど理不尽とは思わなかった事。そしてなによりもしここで自分が戻っていたら、一度でも脱退を考えたものとして殺され、今のように納得できないと心の奥底で考えたからかな。」

マスターは少し驚いていた。少し不安になり聞いてしまった。

「これでよかったんだよな?いいんだよな?」

「私にはわかりません。しかしあなたが納得できているのならそれは答えなのでしょう。」

「これが、決断なんだろう?」

「はい、そうです。」

そうしているうちにもともとしまっていた扉が開いていた。最後に少し気になっていたことを聞いた。

「マスターは何でここにいることに決めたんだ?本当の理由を聞きたい。」

「そういうのを聞いたのはあなたが初めてですね。そうですねー、私を生んでくれた母と父に感謝ありがとうを、そして懸命に見てくださった主治医様に敬意(復讐)をするためにいたのです。」

正直ビビってしまった。それを言ったマスターは目は笑っていながらも発する音は笑っていなかったから。これほどまでの二面性を持っていた人など見たことがなかったから。

「....これ以上は聞かないようにするよ。」

「おや。そうですか。....まぁそうですね。ほら、もう足元が消えてきています。」

どうやら時間が来たようだ。

「マスターの、須賀さんの願いが叶うことを願っているよ。ありがとう。」

彼は少し驚いた顔をした

「ふふ。ええ。願ってください。死人に口なしですが。」

....最後まで少しイラつくやつだ。



マスター、横 須賀は今日も悩んでいる人の話を聞いている、澄んだ人の懺悔を聞いている。それは決して正しい方向ではないのかもしれない。間違ったことなのかもしれない。しかし彼には関係なかった。お客様が選んだことが、正解だと思っているから。それが彼のもう一つの夢だったのだろう。わざともう助からない体にし、親から金を奪う医師ではなく、相手のことを思い、誰かのために行動する人になりたかったのだろう。彼はきっと今も、誰かの話を聞いている。



思いついたら第二章書くかも

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