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第2話

朝食を食べ終えたユタリウスは部屋に戻りベットに仰向けになっていた。

(最初は名前もわからなかったけれど今では私が転生する前のことも思い出すことができる……お母さんのことも……でも……)

ユタリウスは頭を抱えてた。以前の記憶があるとしても実の母であるルミナからすれば自分が全く別の人間だということぐらいわかるのではないだろうかと。

(実は転生者だと伝える……?でも信じてもらえる訳ないしそれに……)

ユタリウスは俯いた。自分が転生する前、つまり本当のユタリウスはどうなってしまったのか。消えてしまったに違いない。そんなことを本当の母親に言えるわけもない。

「私……酷いやつなのかも……」

ユタリウスの身体もルミナの本当の娘も奪ってしまった。巨大な罪悪感に押しつぶされそうになる。 ユタリウスの目から1粒の雫が落ちた時、静まり返った部屋にコンコンッとノックする音が響いた。

「どうぞ……」

急いで涙を拭き応えるとガチャリとドアを開けてロリーが部屋へ入ってきた。

「お嬢様失礼します。ルミナ様がお帰りになりました。」

「えっ!」

ユタリウスはベットから飛び降り窓の外を見る。外には豪華な馬車が止まっていて従者達が荷物を運んでいた。

「ロリーありがとう!!急いで行かなきゃ!」

「お嬢様!走ったら危ないです!」

ユタリウスは先程まで落ち込んでいたのが嘘のように元気に馬車の方へと向かっていく。

 (今そんなことを考えても仕方ないわ!とにかく元気な姿で出迎えなきゃ!2年ぶりに会うんだもの……!)

走って外に出ると、そこには眩いばかりの金髪を優雅に結い上げ、深い新緑の瞳の母、ルミナが馬車から降りていた。ユタリウスの姿を見つけた途端目を輝かせ側に駆け寄った。

「あら!ユタリウス!!お出迎えに来てくれたの……?」

「お母さん!……おかえりなさい!」

ユタリウスの少しぎこちのない笑顔を見てルミナが何かを言いかけた時。

「お母さーん!!おかえりなさい!!!」

ティオが元気よくルミナに飛びついた。ルミナは少しびっくりした顔をしたがすぐに満面の笑みになりティオを抱き抱えた。

「ティオも来てくれたのね……!とっても嬉しいわ。」

そう言うとルミナはティオを下ろしユタリウスとティオを抱きしめた。ユタリウスはその温かさと優しさに喜びと大きな罪悪感を感じた。

ルミナは2人の手を握った。

「それじゃあ中に入りましょうか。」

「うん……」

「はーい!!」

 

  ***


 その後3人はお茶を飲んだり庭園を散歩したりした。時間は過ぎ、気づけば燃えるような茜色が、白亜の城壁を薔薇色に染め上げていた。ティオは疲れてしまったのかスヤスヤと寝息をたてて眠ってしまった。少しの沈黙が続きルミナが口をひらく。

「ユタリウス、会えなかった2年間でとても成長したわね。」

「そ、そんなことないですよ……」

突然話しかけられてびっくりしたユタリウスがたどたどしく答える。その様子を見たルミナが申し訳なさそうな顔をした。

「もしかして私に会いたくなかった?」

「えっ……」

ルミナの言葉にユタリウスは唖然とする。

「会えなかった2年間ずっとずっと謝りたかったの……ティオが起きてる時に言いたかったけれど……」

ルミナはユタリウスの肩に軽く手を乗せた。肩に乗っている白くてか細い手が微かに震えているのを感じた。ハッとユタリウスが顔をあげるとルミナの瞳から大粒の涙が零れ落ちていた。

「ユタリウス……貴方に一番謝りたかった。本当に本当にごめんね。許して欲しいなんて思ってないから……」

「……お母さん、泣かないで、謝らないで……」

「ごめん、ごめんね……」

ルミナが肩を震わしている姿を見てユタリウスの瞳からも雫が流れ落ちる。そんな2人の姿を薄暗い照明が照らしていた。

 食堂で夕食を食べ終えた時、ルミナがユタリウスとティオに声をかけた。

「ユタリウス、ティオ。」

ティオは満面の笑みで、ユタリウスは少し困惑したような表情でルミナの方を向く。

「どーしたの?」

「はい……」

「2人とも本当にごめんね。この2年間広いお屋敷に2人きりにさせてしまって。一緒に連れていくべきだったのに……。」

子供たちを抱き寄せていたルミナの腕に少し力が加わる。

「お父さんに急な魔物討伐と視察の命令が下ったのですから仕方ないですよ。お母さんは何も悪くありません……。」

「そうだよ!!それにお姉ちゃんが遊んでくれたりしたから全然寂しくなかったよ!!」

2人の言葉を聞いたルミナはの瞳がゆらりと揺れた。

「2人とも……とても仲良くなったのね。」

ルミナは子供たちをさらに強く優しく抱きしめた。

するとティオが何か言いたげな顔をした。

「お母さん、あのね……」

「どうしたの?」

「今日はお姉ちゃんとお母さんと一緒に寝たいな……」

ティオは顔を赤く染めながらポツリと呟く。そんな様子を見たルミナから笑みがこぼれる。ユタリウスも自然と笑顔になっていた。

「もちろんよ。ユタリウス、いいかしら?」

「はい。もちろんです!」

「本当……?やったぁ!!」

ティオがぴょんぴょんとうさぎのように飛び跳ねる姿を見て2人は微笑む。ユタリウスはルミナの方に顔を向けた。

「お母さん。私、お母さんと会いたくないなんて思ってませんでした。」

「え……?」

「確かに寂しかったけれど、恨んだり嫌いだと思ったことなんて1度もないんです。ただ、久しぶりにお会いするからどんな顔をしたらいいか、少し照れてしまってたんです。私はお母さんのことが大好きですから。」

 (この気持ちは前の"ユタリウス"が本当に思っていたことだから……それに私の気持ちも嘘じゃないから。)

ユタリウスはにこりとルミナに微笑む。ルミナもまたユタリウスに微笑み目を細めた。

「もう二度と貴方たちを置いて行ったりしないわ。本当にごめんなさい。私も愛してるわ。」

2人の姿を見ていたのかティオが2人に飛びつく。

「僕も!!お母さんとお姉ちゃんのことだーいすき!!!」

 窓の外は深い闇に包まれていたが、部屋の中は照明の柔らかな光と、ルミナの優しい声で満たされていた。

離れていた2年間を埋めるように、3人はいつまでも話し続けた。幸せな時間が夜の暗闇を溶かしていくかのようだった。

 しかしユタリウスの平穏な日常は、数日後、予期せぬ形で破られることになる。

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