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睡眠労働社会  作者: 椎名ユシカ


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3/3

003/DB(DreamBroadcast)――夢がコンテンツになる日

資本主義というものは、一度でも「価値の源泉」を見つけると必ず次の段階へ進む。


最初はデータ提供だけで済むかもしれない。けれども、やがてこういうニーズが生まれるだろう。


「もっと面白い夢が欲しい」

「もっと刺激的な体験を夢として追体験したい」


そこで登場するのが、プラットフォーム企業が提供するDreamBroadcastだ。


DBは人々が見た夢を映像と音、感情の流れとして記録しリアルタイム、あるいは編集済みのコンテンツとして配信する。


視聴者は提供者の夢を追体験。恐怖や快楽、絶望や美しい風景、あり得ない恋愛と死の瞬間。それらすべてが「共有可能な体験」として市場に並んでいるのを想像すると楽なのかもしれない。


夢の提供者や配信者は視聴数やコメント数や共感スコアに応じて報酬を得る。AIはそれらの夢データを解析し、人間の深層心理・創造パターン・感情構造をひたすら学習していくのがこれだけでも容易に想像できるだろう。


そして、あるとき人類は気づく。


現実で頑張ってコンテンツを作るより、ただ眠って悪夢を見ていた方が、よほどよく稼げる人たちが出てくることに。


この瞬間から「どれだけ過激で、どれだけ強い感情を生む夢を見られるか」が1つの競争軸になる。製薬会社はより良い夢が生み出せると謳い、「より鮮明で、より感情負荷の高い夢」を作り出す薬を堂々と販売し始めるだろう。


最初は「快眠サポート」「創造性向上サプリ」といった穏やかな銘打で。けれども、やがてパッケージには正直なキャッチコピーが並ぶようになる。


「恐怖値+180% 悪夢特化型」

「絶頂ループ48時間 快楽耐性崩壊剤」

「死の体験をクリアに トラウマ保証プラン」


プラットフォーム側も当然それに応え、DreamBroadcastは「感情インパクト数値のランキング」を導入する。単なる視聴数ではなく、視聴者が追体験した瞬間の心拍数上昇値、涙腺反応、性的興奮度、トラウマ残存率という生体指標をリアルタイムで数値化した悪夢。それらを総合した「感情スコア」が報酬に直結する仕組みだ。


上位常連は「悪夢職人」と呼ばれるようになるはずだ。


彼らは現実の生活を極力削ぎ、薬と電極と点滴だけで生きる。そしてランキング1位の配信者は、毎晩「自分が最も愛する人を何度も殺す夢」を見せ続け、視聴者はその絶望と後悔の波に溺れることでカタルシスを得る。


コメント欄は「ありがとう」「また殺して」「今夜も最高の絶望を」で埋まり、いつしかコミュニティは大きくなって宗教めいた何かを感じさせる空間になっていくのだろう。やがて「感情スコア100000超え達成者には永眠特典」という都市伝説めいた噂が流れる。


プラットフォームが公式に否定しても、ランキング上位者がぽつりぽつりと姿を消していく。


誰も確かめようとはしない。

なぜなら、誰もが薄々気づいているからだ。


「最高の夢とは、もう二度と醒めなくていい夢」なのだと。


こうして睡眠は完全に労働へと変貌する。

人間は起きている時間よりも、眠っている時間の方が価値を持つ存在になる。

夢見が上手い者は富を得て、夢見が下手な者は貧しさを強いられる。


「寝て稼ぐ」ことが究極の成功モデルとして確立される日は、そう遠くない。

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