9本目・救世主?
ギルドの大広間。
テーブルの上でタバコの箱を何度も開け閉めしながら、瞬は深いため息をついていた。
残り数本――それが、この異世界での彼の命綱。
「……詰んだかもしれん」
そう呟いたとき、奥の扉から優衣ときいが戻ってきた。
優衣の手には布袋、その中から乾いた葉の香りがふわりと広がる。
「瞬、ただいま。依頼、無事に終わったよ」
「おかえり。……で、どうだった?」
顔を上げた瞬の目は疲れ切っていた。
優衣はにやりと笑い、袋から束ねた葉を取り出してテーブルに置いた。
「……これ」
瞬はその葉を見た瞬間、固まった。
鼻を近づける。独特の、懐かしい香り。
「こ、これは……!」
「ニコチ草っていうんだって。タバコみたいに煙にして吸う人もいるらしいよ」
次の瞬間、瞬の顔はぱっと明るくなった。
それは――まるで、かつて優衣にプロポーズをし、彼女の父に結婚を許してもらったときのような、心の底からの笑顔だった。
「優衣……お前は、女神か……!」
「大げさだってば」
「にゃはは! 瞬、さっきまで顔が死人みたいだったにゃ!」
瞬はニコチ草の束を胸に抱きしめ、目を潤ませながら笑った。
「これで生きていける……俺は異世界でも、やっていけるぞ!」
ギルドの喧騒の中、彼の声はやけに力強く響いた。