8本目・クエストクリア
森の奥で薬草を抱えて戻ってきた優衣ときいは、陽が傾きはじめた頃にトリスタンの冒険者ギルドへと帰還した。
カウンターに薬草をどさりと置くと、受付のエルフ風の女性が目を丸くする。
「こ、こんなにたくさん……! しかも傷一つなく摘み取られてますね」
「楽勝だったにゃ!」
きいが胸を張ると、周囲の冒険者たちがざわめいた。
「猫がしゃべった……」
「いや、それよりも……この女、無傷でライトウルフを退けたのか?」
視線を集めながらも、優衣は飄々と笑みを浮かべていた。
受付嬢は報酬の袋を差し出した。
「初めての依頼、お疲れさまでした。こちらが報酬の銀貨三枚と……追加で、ギルドからのささやかな贈り物です」
彼女が取り出したのは、薄茶色の葉を束ねたものだった。
葉は乾燥させると独特の香りを放つらしい。
「これは……?」
優衣が首をかしげると、受付嬢は柔らかく微笑んだ。
「ニコチ草。この辺りではあまり需要はありませんが、嗜好品として煙にして吸う方もいますよ。市場にはあまり出回らないので、珍しいものなんです」
「に、ニコチ草……!?」
横にいたきいがぴくりと耳を動かし、瞳を輝かせた。
「それ、瞬が必死に探してたやつにゃ! 『タバコみたいなのねぇか~』って、街じゅう聞き込みしてたにゃ!」
優衣は思わず吹き出した。
「あはは……あの人、まだ探してたんだ。クエストよりタバコ優先なんだから」
袋を受け取った優衣は、ギルドの賑わいを背にしながら呟いた。
「でも、これで瞬も少しは元気になるかな」
その頃、街の片隅で本気で落ち込みながら露店を物色していた瞬は、まだ知らない。
自分の嫁と猫が、まさに救世主のように“異世界タバコ”を持ち帰ろうとしていることを――。