7本目・YOMENECO・QUEST
ギルドの掲示板に貼られていた初心者向けの依頼。
それは定番中の定番――薬草の採取だった。
「じゃあ、この依頼を受けようか」
優衣が差し出した紙を見て、きいが嬉しそうに尻尾を振る。
「にゃ! 初めての依頼にゃ! わくわくするにゃ!」
「俺も行く――」と言いかけた瞬を、優衣がすかさず制した。
「瞬は残ってて。どうせ私ときいがいれば安全でしょ」
「……むぅ」
タバコをくわえたまま不満げに瞬は頬を膨らませる。
だが、優衣ときいのステータスを思えば反論もできない。
仕方なくテーブルに肘をつき、タバコをふかした。
(……そういや)
ポケットに手を突っ込み、箱を取り出す。
中を覗くと、残りはわずか数本。
(やばい……残り半分も切ってるじゃねぇか)
胸がざわつき始めた。
異世界に来てから気づけば吸うペースが上がっている。
このままでは、すぐに底をつく。
「……こっちはこっちで、大問題だな」
瞬は椅子を蹴るように立ち上がり、決意を込めた顔をする。
「タバコを……見つけねえと」
優衣ときいが薬草採取の依頼に向かうその間、瞬はトリスタンの街を歩き回り、葉巻や嗜好品の露店を覗いては匂いを嗅ぎ、薬草屋に入り込んでは店主に「喉や気持ちを落ち着ける草はないか」としつこく尋ねた。
しかし、答えは芳しくない。
「煙を吸うなんて身体に悪いこと、誰が好き好んでやるんだい」
と、鼻で笑われる始末だった。
一方そのころ、森に入った優衣ときいは、薬草の群生地を見つけていた。
だが――
「グルルル……!」
影の間から姿を現したのは、灰色の毛並みをした魔物――ライトウルフ。
牙を剥き、優衣に飛びかかってきた。
「優衣! 危ないにゃ!」
きいが叫ぶ。
だが――
ガキィンッ!
狼の牙が優衣の肩に噛み付いた瞬間、嫌な音を立てて牙が粉々に砕け散った。
逆にライトウルフの方が悲鳴を上げて転がる。
「……やっぱりね」
優衣は淡々と剣を抜き、残った魔物を一閃で払いのけた。
血飛沫が舞うが、彼女は平然としている。
「……薬草採取って、思ったより簡単かも」
にやりと笑う優衣の隣で、きいは呆れ顔だった。
「優衣、ちょっと強すぎるにゃ……」
こうして優衣ときいは、ほとんど無傷どころか“無労力”で薬草採取を終えようとしていた。
その頃、街に残った瞬は、真剣な顔で市場を歩きながら呟いていた。
「……なあ、本当にこの世界には、タバコに似た草はないのか……?」
タバコの残りはあとわずか。
異世界生活最大の問題は、魔物よりも――ニコチン不足かもしれなかった。