6本目・下級火属性魔法発動!
「うまっ!」
骨付きの肉に豪快にかぶりつき、油で口元を光らせながら優衣は幸せそうに笑った。
周囲の冒険者たちもその食べっぷりに釣られて「おお!」と歓声を上げる。
一方の瞬は、テーブルに肘をついて不貞腐れたようにタバコを口にくわえた。
彼の前には、炭火で焼かれた肉が山と盛られているが、手を付ける気にはなれない。
「……ふん」
指先で軽く印を結び、呟く。
「【プチ・ファイ】」
ぽっと小さな火花が生まれ、タバコの先端に炎が移る。
瞬は深く煙を吸い込み、肺を満たす煙と共に、少しだけ胸のむしゃくしゃを吐き出した。
「にゃっ! もう魔法が使えてるにゃ!」
きいが尻尾をぶんぶん振って驚く。
瞬は煙を吐きながら、どこか自慢げに鼻を鳴らした。
「まあな……タバコに火をつけるぐらいは、俺だってできるんだ」
「ぷっ……」
優衣が肉を噛みながら、口元を押さえて笑い出す。
「な、なんだよ」
「だって……瞬、念願の魔法がやっと使えたじゃない。よかったねぇ~」
その言い方は、明らかにからかっている。
瞬はむっとした顔でタバコを指ではじいた。
「……お前はいいよな。最上級魔法だの無敵スキルだの、盛りだくさんでさ」
「そんなの、私だって望んでたわけじゃないわよ」
優衣が頬を膨らませると、きいが間に割って入るようにテーブルの上に飛び乗った。
「まあまあ。ケンカするにゃ。今はこれからどうするか、考えるときにゃ」
2人と1匹は顔を見合わせる。
「……まずは拠点だな」
瞬が煙を吐きながら言った。
「宿を確保して、この街トリスタンでの生活を始める」
優衣は少し考え込む。
「でも……私たちが異世界から来たこと、いずれバレるんじゃない? きいのことだって目立ちすぎるし」
「隠しても仕方ないにゃ。それより、ギルドで依頼をこなして信用を得るほうがいいにゃ」
きいの言葉は妙に理性的だった。
瞬はタバコの灰を落とし、にやりと笑う。
「だったら、俺は農業だな。このスキルを伸ばせば、飯に困ることはねえ。……タバコの葉だって作れるかもしれねえし」
優衣はため息をつきつつも、微笑んだ。
「仕方ないわね。瞬が畑を耕すなら、私は依頼で稼いでくるわ」
「にゃはは! 2人とも方向性が違いすぎるにゃ!」
酒場のざわめきに混じりながら、3人の未来についての話し合いは続いていった。
異世界での新しい日々は、もう始まっている――。