55本目・やっぱり瞬はメンソール
瞬は縁側に腰を下ろし、ニコチ草で作った煙草をゆっくりと燻らせていた。
乾いた葉の香ばしさと、どこか甘みを含んだ煙の味わい。
「……うん、これはこれで最高なんだよな」
満足げに目を細める。
けれど、その顔にはどこか物足りなさが滲んでいた。
「……でもなぁ……やっぱり、ちょっと違うんだよな……」
煙を吐きながら瞬は眉を寄せる。
「なにが違うの?」と優衣が問いかけた。
「味はいいんだ。もう十分満足してる。でもさ……俺、元々はメンソール派なんだよな」
「メンソール?」きいが小首をかしげる。
瞬は熱弁を振るった。
「そう、あのスースーする清涼感! 吸い込むと喉の奥が冷えて、頭までシャキッとする感じ! 食後とか、疲れたときに最高なんだよ!」
「……完全に中毒者の顔してるんだけど」優衣が呆れ声でつぶやく。
瞬は肩をすくめ、困ったように笑った。
「でも、この世界じゃミントとかハッカの類は……ないんだろ?」
すると、横で黙って聞いていたガイエンが、ぎろりと目を光らせた。
「……ミント? ハッカ? 聞いたことはないが……“喉を冷やす草”とな? ほぅ……」
「ちょ、ガイエン?」
「なるほど、煙に清涼を与える草か……おもしろい! おもしろいぞ!!」
ガイエンは急に立ち上がり、腕を組んで唸りはじめた。
「もしそれがこの世界に存在せぬのなら、似た効果を持つ植物を探し出せばよい! いや、配合や加工で近い味を生み出せるかもしれん!」
その目は完全に職人モード。
まるで新しい鉱石を見つけたドワーフのように燃え上がっている。
「いや、そんな大げさな……」瞬は苦笑いするが、内心では胸が高鳴っていた。
(……もしメンソール煙草が吸えたら……最高じゃん……!)
こうして瞬の小さな欲望は、ドワーフの職人魂を巻き込み、また新たな挑戦の火種を生んでしまったのだった。




