54本目・きいの初クエスト
朝の光が差し込む。
「ふぁぁ……今日もあったかいにゃ……」
布団の中、優衣の腕の中で目を覚ます。やっぱりこの場所が一番安心するのだ。
でも今日は特別な日。
「今日は……わたし、初めて自分でクエスト受けるにゃ!」
胸をとんとん叩いて気合を入れる。瞬も優衣ももうすっかり立派な冒険者。そろそろ自分も、ただついて行くだけじゃなくて、“仲間”として役に立ちたい。
ギルドに行くと、冒険者たちの視線が集まる。
「お、鍬神のとこの猫か?」
「可愛いなぁ……って、あれ、依頼書見てるぞ?」
ざわざわする声。耳が赤くなってぴくぴくする。
「……えっと、この“薬草採取”にゃ!」
受付嬢エリンに依頼書を差し出す。
「まぁ! きいちゃん、自分でクエストを? いいわよ、気をつけてね」
にっこり笑うエリン。胸がどきどきするけど、悪い気はしない。
森の中。
鼻をひくひく、耳をぴんと立てる。
「うん、この匂い……こっちに薬草があるにゃ!」
枝の上に軽やかに飛び移り、影から影へ進む。瞬や優衣と一緒にいるときよりも、ずっと集中している気がする。
「見つけたにゃ!」
青緑の葉っぱを持つ薬草を見つける。前足でちょんちょんと触ってから、袋に大事にしまった。
……でも、そのとき。茂みからがさりと音がした。
「……だ、誰にゃ!?」
小さな体がぶるっと震える。でも逃げない。
茂みから飛び出してきたのは――大きなラグーラビットだった。耳が鋭く、赤い目をしたモンスターだ。
「こ、来るにゃ……!」
背中の毛を逆立て、爪を光らせる。
「紅蓮……獅爪裂破っ!!」
――ずばんっ!
炎を纏った爪が大地を裂き、モンスターを薙ぎ払った。燃え残る草の匂い。息を切らしながらも、しっかりと立っていた。
「……わたし、やれたにゃ」
尻尾がふわっと揺れる。誇らしい気持ちで胸がいっぱいになった。
夕暮れ、ギルドに帰還。
「ただいまにゃ! 薬草も持ってきたにゃ!」
袋を差し出すと、エリンが目を丸くする。
「きいちゃん……本当に自分でやってきたのね。すごい!」
周りの冒険者たちが拍手する。
「やるじゃねぇか!」
「鍬神の仲間はやっぱ違うな!」
褒められるのはちょっと恥ずかしい。でも心はぽかぽかだ。
夜。
「きい、今日は疲れたでしょ」
優衣が布団をめくる。瞬はエール片手に「よくやったな」って笑ってくれた。
「ふふん、わたしだって立派な冒険者にゃ!」
そう言いながら、やっぱりいつものように優衣の腕の中に潜り込む。
「……でも、まだまだ一人は寂しいにゃ」
尻尾をふわりと揺らし、眠りについた。




