53本目・リリスと猫と剣神と
トリスタンの街角にある古道具屋。
木の看板には花を模したルーン文字が刻まれ、扉を開けば、どこか懐かしい香りが漂う。
「……やっぱりここ、雰囲気いいよね」
「にゃぁ、見たことない家具いっぱいあるにゃ!」
店主リリスが奥から現れ、ぱっと笑顔を見せる。
「いらっしゃい、優衣ちゃんにきいちゃん! 瞬さんは畑?」
「うん。腰痛そうにしてたから、今日は椅子とかベッドを見に来たの」
アンティーク調の家具が並ぶ中、リリスが優衣に勧めたのは、長く座っても疲れない不思議な加工の椅子だった。
「瞬は……座りながらタバコ吸うんでしょ?」
「そう! しかもゲーム中でも……って、あ、これはっ…」
優衣は思わず口を押さえ、きいは尻尾を振りながらケラケラ笑う。
「でもね、寝室では絶対電子タバコしか使わないんだよ。煙で部屋が汚れるの嫌らしくて」
「……几帳面なのか、ただの変なこだわりにゃ」
そんなやりとりをしているうちに、きいがベッドコーナーで目を輝かせた。
「優衣、これ買うにゃ! ふかふかで最高にゃ!」
「……ベッド? もしかして自分用?」
「そうにゃ! 最近優衣と寝てると狭いにゃ!」
「……自覚はあったのね」
結局、小さめのベッドを買うことにしたきい。
リリスは「まるでお姫様用ね」と微笑むが、きいは胸を張って「にゃっ!」と答える。
──夜。
新しいベッドに寝かせたきいは、気持ちよさそうに丸くなり、優衣はホッと息をついた。
「今日はちゃんと自分のベッドで寝るのよ?」
「任せるにゃ……すぅ」
やっと静かに眠れるかと思った優衣だったが──
もぞもぞ……。
気がつけばきいは優衣の布団へ潜り込み、腕の中に収まっていた。
「……もう、やっぱりこうなるんだ」
呆れながらも笑って、優衣はきいの背を撫でた。
夜は静かに更け、布団の中には小さな温もりと優しい笑みがあった。




