52本目・異世界ウォーキング
翌日。
瞬と優衣、そしてきいは、街の市場をのんびり歩いていた。
人の声、荷車のきしむ音、香ばしいパンの匂い――活気に満ちた雰囲気に、つい足取りも軽くなる。
「こうして見ると、色んな作物があるんだね」
優衣は目を輝かせながら、並ぶ品々をひとつひとつ覗き込む。
「にゃぁ〜! 見てにゃ瞬! あの肉まんみたいに膨らんだ実、なんか美味しそうにゃ!」
きいが前足で指したのは、緑色のゴツゴツした果実。店主が割って見せると、中は赤いゼリー状でぷるぷる揺れていた。
「おぉ……グロい……けど、ちょっと食ってみたいな」
瞬が引き気味に言うと、きいは尻尾をふりふり。
「ゼリー系は得意にゃ! 絶対おやつにするにゃ!」
少し歩くと、薬草専門の屋台があった。
香りの強い葉や、怪しげな紫色の茸が山積みにされている。
「これは……冒険に使えそうだな」
瞬は真剣な顔で手に取り、店主に効能を尋ねる。
「それは《ルーンリーフ》。刻んで煮出せば魔力回復に効くんだよ」
「へぇ……畑で育てられたら、みんなの役に立つな」
優衣はそんな瞬の横顔を見て、少しだけ微笑んだ。
「ほんとに、農業のことになると真剣になるんだから」
さらに進むと、香ばしい匂いに引き寄せられる。
屋台の鉄板で焼かれていたのは、黄金色の穀物パン。
「これ、麦とは違うのか?」と瞬が問うと、店主が胸を張る。
「《サンブレッド穀》だよ! 陽光をよく浴びるほど甘みが増す。普通の麦より力がつくんだ」
「おお、そりゃ畑に植えてみる価値あるな」
瞬の目が輝いた。
「にゃー! パン食べ放題にゃ!」
きいは両手を広げて飛び跳ねる。
市場を歩きながら、ノートに候補をメモしていく瞬。
・ルーンリーフ(魔力回復)
・サンブレッド穀(パンや酒に加工できる)
・謎のぷるぷる果実(きいのおやつ用)
「……だいぶ色んなのが集まったな」
瞬が息をつくと、優衣が頷いた。
「これから畑がどんどん賑やかになるね」
「にゃー! きっと食卓も賑やかになるにゃ!」
市場の喧騒の中、三人の笑い声が響く。
戦いのない、ほんのひとときの穏やかな時間だった。




