表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/59

51本目・畑の未来

ニコチ草の加工が終わり、瞬が初めての一服をした翌日。

その話は、驚くほど早く街中に広まっていた。


「おい聞いたか? 瞬が作った葉っぱで煙が吸えるらしいぞ」

「しかも味も香りも絶品だって! あのドワーフのガイエンが太鼓判押したらしい!」

「鍬神、やっぱりただ者じゃなかったか……」


 酒場の片隅では、すでに「鍬神印の煙草」について熱く語り合う冒険者たちまでいた。


「なんか……えらいことになってるぞ」

自分の噂話を耳にしながら、瞬は気まずそうに頭をかいた。


「いいじゃない、凄いことだよ!」

優衣はぱっと笑顔を見せる。

「ニコチ草、ちゃんと育てて形にしたんだもん。みんなが褒めるのも当然だよ」


「んにゃー、でも煙の匂いはちょっとキツいにゃ……」

きいは鼻をひくつかせ、顔をしかめて尻尾をぶんぶん振った。


 その日の夕暮れ。

畑に立つ瞬の背に、優衣がそっと声をかける。


「ねぇ、瞬」


「ん?」


「この畑、まだ余ってる土地あるでしょ? どうせなら……他の作物も育ててみたらどうかな?」


 瞬は手を止めて振り向く。

「……他の、か」


「うん。食べ物とか、薬の材料とか。瞬ならできると思うの。だって、あのニコチ草だってここまで育て上げたんだから」


 優衣の声は真剣だった。

彼女にとって、瞬はただの農夫ではない。

畑を耕す姿は、どんな戦いよりも確かで、安心をくれるものだった。


「……へへ。俺にそんな才能があるなんて思わなかったけどな」

瞬は鍬――いや、相棒の黒焔・クワを握り直した。

「でも、まぁ……挑戦してみるのも悪くねぇか」


「やった!」

優衣はぱっと顔を輝かせた。

「私も手伝うからね!」


「にゃー、あたしも食べられる実ができるなら手伝うにゃ!」

きいが勢いよく飛び跳ねて加わった。


 畑の空は茜色に染まり、三人の笑い声が風に溶けていく。

ニコチ草だけじゃない、新しい可能性がここから広がっていく――

そんな予感が、確かにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ