50本目・ついに念願の!!!!!
畑の隅に、小さな区画がある。
そこには他の作物とは明らかに違う、濃い緑の葉を広げた植物が育っていた。
――ニコチ草。
優衣ときいが、とあるクエストの報酬で手に入れた珍しい種を、瞬が丹精込めて育て上げたものだ。
「やっとだ……やっとここまで育った……!」
瞬は汗だくになりながら葉の感触を確かめた。
その表情は農夫ではなく、まるで職人。いや、信仰を捧げる信者のようですらあった。
「そんなに大事なのか?」
畑を見に来たガイエンが、怪訝そうに腕を組む。
「大事なんてもんじゃねぇ! これがなきゃ俺の人生は半分灰色だ!」
瞬は胸を張り、まっすぐに答える。
加工の儀
収穫されたニコチ草は、ガイエンの工房へと運ばれた。
ガイエンは慎重に葉を束ね、天井から吊るす。
「まずは乾燥だ。時間をかけて余分な水気を抜く。でなきゃ吸った途端に喉が焼ける」
やがて、燻香石の粉を散らす。
赤い光がじんわりと広がり、部屋に甘く苦い芳香が漂った。
「っ……! これだ、この匂い……!」
瞬の鼻孔が震える。
「落ち着け。まだ先は長いぞ」
次に、焙煎。ガイエンの掌に宿る青白い精火が、葉を均一に炙る。
ぱちりとも音を立てず、ただ香ばしさだけが濃くなっていく。
葉は濃茶へと変わり、艶めいていった。
「……美しい……」
瞬は涙ぐむ。
「お前は葉に惚れてどうするんだ」
ガイエンが呆れながらも、口元には笑みを浮かべた。
仕上げに黒曜石の筒に詰め、一晩魔力を巡らせる。
翌朝には、一片の宝石のような葉が完成していた。
刻み、巻き、端をひねり――一本の“異世界タバコ”が姿を現した。
瞬の回想
初めての一口を吸った瞬間、煙とともに記憶が蘇る。
学生時代。
「タバコやめるって言ったよね?」
初めての彼女に責められ、こっそり吸ったのがバレてフラれた。
(※これは作者の実話です。)
優衣と家でゲームをしていた時。
「ねえ、試合中に電子タバコばっかり吸わないで! 集中して!」
「いや、手が空いたから……」
「コントローラーから手を離さないで!」
(※ここも作者の実話です。ガチで怒られました)
さらに仕事を体壊して退職した時期。
金がなく、優衣に頭を下げた。
「頼む……タバコだけは……!」
その代わりに家事をすべて担い、掃除・洗濯・料理をこなし、ようやく一箱分のお小遣いを得た。
「報酬でタバコを買ってあげるわっ。」
あの時の優衣の慈悲は、瞬にとって女神の笑みに見えた。
(※これも作者の実話です。今でも女神と言わないと買ってもらえなかry)
現在へ
吸い込んだ煙は、喉をすべり落ち、腹の底でじんわりと熱に変わる。
次の瞬間、全身に温かさが広がり、思わず震えた。
「……っはぁ……! うめぇぇぇぇ!!」
瞬は涙目で叫んだ。
「俺は……生きててよかった……!」
ガイエンは煙にむせながらも、呆れ笑いを浮かべた。
「まったく……だが、そこまで幸せそうなら、作った甲斐があったかもな」
異世界に立ちのぼる煙は、どこか優しく懐かしく――
瞬の心に、確かに刻まれた。




