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49本目・メグの日常

ギルドの大宴会から数日――。

メグはすっかり「新人料理人」として厨房に立ち、慌ただしいギルドの一日の中でなくてはならない存在になっていた。


「おい、このシチュー……昨日よりもうまい気がするぞ!」

「いや、こっちの肉料理だ! 力が湧いてくる! 俺、今日は三件依頼いける気がする!」


冒険者たちは次々と料理を平らげ、その効果に舌鼓を打つ。戦士は筋肉を誇示して「ほら見ろ! 力が漲ってるだろ!」と大笑いし、魔術師は「魔力の巡りが滑らかだ……これ、回復薬より効くのでは?」と真剣に呟く。

二日酔いでフラフラしていた男が、スープを一口飲んだだけでシャキッと目を覚まし、「奇跡だぁ!」と大騒ぎする場面もあった。


ギルド中がメグの料理の効果に驚き、笑い、そして彼女に惹き込まれていく。


そんな中、ひときわ大きな声が響いた。


「メグさん! 俺と付き合ってください!」


屈強な冒険者が真っ赤になって厨房に飛び込んできたのだ。ギルド中が一斉にざわつく。

メグは動じず、眼鏡を軽く押し上げて微笑んだ。

「ごめんなさい。私は皆さんに美味しいご飯を届けることで精一杯なんです」


――一瞬で、冒険者は撃沈。

周囲が「ははは!」と笑いに包まれる中、優衣はむっとして立ち上がった。


「ちょっと! お姉ちゃんは私のなんだから! 勝手に口説かないでよ!」


場がさらにどっと沸き立ち、メグは「お姉ちゃん」と呼ばれて頬を赤らめながらも、優衣の頭を軽く撫でていた。


やがて、メグの料理は冒険の面でも欠かせないものとなっていく。


「メグさん、今度の遠征についてきてくれないか?」

「あなたの料理があれば、どんな敵とも戦える気がする!」


冒険者たちからの頼みに、メグは穏やかに首を振った。

「私はギルドを守る立場です。外には出られません。でも――これを持っていってください」


そう言って差し出されたのは、干し肉やスープを乾燥させた携帯食。

「調理すれば、温かい料理になります。仲間と力を合わせて食べれば、きっと心も強くなれますよ」

冒険者たちは感動し、涙を浮かべて携帯食を抱えて出発していった。


だが、その加護は時に「奇跡」を呼んだ。


ある日、重病で寝込んでいた街の老人がメグのスープを口にすると、翌朝には元気に歩けるようになっていた。

また別の日には、しおれた花壇に残り物のスープを撒いた冒険者が、翌日見事に咲き誇る花々を目にして腰を抜かした。


「……これは、ただの料理じゃないな」


ハインズはメグを遠くから見つめ、静かに呟いた。だがメグは振り返り、片目でウインクしてみせる。

その仕草に、ハインズは何も言わず、ただ微笑んで頷いた。


そんな彼女を最も喜ばせていたのは――子どもたちとの交流だった。


ギルドに遊びに来る孤児や冒険者の子どもたちに、メグはよくお菓子を焼いてやった。

クッキーを手にした子どもたちが「お姉ちゃん、ありがとう!」と笑顔で抱きつく姿を見て、優衣は胸が熱くなる。


「……本当に、お姉ちゃんみたい」

そう呟いた時、メグは優しく微笑み、優衣の髪を撫でてくれた。


その夜。

優衣はメグと二人、厨房の隅でお茶を飲んでいた。

窓から差し込む月明かりが、メグの黒髪をやわらかく照らす。


「もし、本当のお姉ちゃんだったら……」

思わずこぼれた言葉に、メグは少しだけ沈黙した後、柔らかい声で答えた。


「……私は、あなたを守りたいからここにいるの」


優衣の目に涙が溢れ、やがて笑顔に変わっていった。


こうして、メグは冒険者たちにとっても、街の人々にとっても、そして優衣にとっても――かけがえのない存在へと溶け込んでいった。


ギルドの片隅では、今日も笑い声と、美味しい料理の匂いが広がっていた。

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