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48・新人料理人メグ

ギルドの大広間は、これまでにないほどの熱気に包まれていた。

テーブルいっぱいに並ぶ料理、あふれる酒樽、そして冒険者たちの笑い声。

「禁忌の森」から生還した瞬・優衣・きいを囲み、夜通しの宴が開かれていた。


「うまっ! なんだこれ、いつものシチューと全然違ぇぞ!」

「肉の焼き加減が絶妙だ! 食っただけで体が熱くなる!」


 冒険者たちは口々に歓声を上げ、次々と皿を空にしていく。

怪我をしていた者がスープをすすれば、見る間に顔色が良くなり、古傷の痛みすら和らぐ。

肉料理を食べた若者は力を持て余し、仲間に腕相撲を挑み始める始末だった。


「……妙だな」

瞬はエールを片手に、皆の様子を見て小さく呟いた。

「こんなもんだろ!」と笑って飲み干したが、優衣の心には引っかかるものがあった。


――この味、知ってる。


 ふと運ばれてきた皿に、優衣は息を呑んだ。

そこにあったのは、ふんわりと焼かれたバナナ入りホットケーキと、湯気の立つ紅茶。

懐かしい甘い香りが、胸の奥を強く締めつけた。


「……お姉ちゃんが、よく作ってくれたやつ……」

震える声で呟いた瞬間、厨房の扉が開く。


 現れたのは背の高い黒髪の女性。

艶やかな髪をポニーテールに結い、知的な眼鏡を掛けたその姿は――


「お姉……ちゃん……?」

優衣の瞳から、熱い涙が零れ落ちた。


「初めまして。メグって言うの」

女性はやわらかく笑みを浮かべ、盆を持ってテーブルに歩み寄る。

「人違いだよ」と口では言ったが――その瞬間、優衣の頭に直接、温かい声が響いた。


『……ごめんね。試練で見えた“あなたの大切な人”を、こうして借りてしまった。

でも、あなたを見守るために、この街で生きる姿を選んだんだよ』


 それは間違いなく、聖竜の声だった。

優衣は涙を拭い、ふるふると笑った。

「……ありがとう。お姉ちゃん、って呼んでもいい?」


 メグは少し驚いたあと、にっこりと頷いた。

「うん。好きに呼んでいいよ」


 冒険者たちは知らず、すっかり「姉貴!」と呼んで盛り上がっている。

その様子を見ながら、ハインズはゆっくりと杯を置いた。


 ただ一人、彼は気づいていたのだ。

目の前の“新人料理人”の奥に、あの日見た聖竜の光が宿っていることに。


 メグと視線が合う。

彼女は楽しそうに片目をつむり、いたずらっぽくウインクしてみせた。


「……そういうことか」

ハインズは深い皺の中に笑みを刻み、静かに頷いた。

――この街は、まだまだ守られている。

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