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45本目・聖竜の祝福

黄金と白銀の鱗に包まれた巨体が、天を突くように翼を広げた。

次の瞬間――


 ドォォォォォン!!


 大気そのものを震わせる咆哮が響き渡り、森の奥深くまで轟いた。

その声は恐怖を呼ぶ咆哮ではなく、世界の隅々まで浄化を告げる“祝福の音”だった。


 大きな翼がひとたび羽ばたくと、そこから光の鱗粉が零れ落ち、夜空に瞬く星のように舞い散っていく。

その光はやがて、禁忌の森全体を覆い尽くした。


 ――闇が退いていく。


 瘴気に侵され黒ずんでいた木々は、瑞々しい緑を取り戻し、葉は光を反射して柔らかく揺れた。

長く干上がっていた川には、透明な水が勢いよく流れ込み、清らかなせせらぎを響かせる。

地に満ちていた腐臭は消え去り、代わりに草花の香りが漂い始めた。


 戦いで焼け焦げた大地も――

今は一面の花畑に姿を変えていた。

色とりどりの花弁が風に舞い、鳥たちがさえずり、蝶がひらひらと舞い降りる。


「……う、嘘みたい……」

優衣が黒焔・フレイムファングを下ろし、思わず見惚れて呟いた。


「これが……本当の森の姿か……」

瞬は黒焔・クワを杖のように支え、ただ静かにその光景を目に焼き付ける。


「にゃぁ……きれい……」

きいは瞳を潤ませ、花畑の中で尻尾を震わせた。


 やがて、聖竜はゆるやかに降り立った。

巨体は圧倒的でありながら、不思議と畏怖よりも安らぎを感じさせる。


 ――そのとき。


 直接、脳内に響く声があった。

低く、しかし限りなく澄みきった響き。


『……勇敢なる者たちよ。汝らの力と心に、我は深く感謝を捧げる』


 三人は言葉を失い、ただその声に耳を傾ける。


『汝らの働きにより、我は再び光を得た。

 約束しよう……その勇気に報いを与える』


 聖竜の眼差しが、瞬に向けられる。

『汝、土を愛し、大地に立つ者よ。その手に、“爪”を授ける。あらゆる岩を穿ち、道を切り拓く爪なり』


 黄金の光が瞬の黒焔・クワに吸い込まれ、刃の先端に爪のような輝きが刻まれる。


 次に、優衣。

『汝、心に焔を宿し、刃を振るう者よ。その身に、“鱗”を授ける。あらゆる刃から汝を護る、竜の誇りなり』


 優衣の体を蒼白い光が包み、その肌の奥に竜鱗の加護が刻まれた。


 そして、きいへ。

『汝、自由なる魂よ。潜む力を恐れず解き放て。汝の潜在は未だ眠る……それを“覚醒”させよう』


 光がきいを包み、炎を纏った影が彼女の背に一瞬浮かんだ。

まるで獅子と龍が重なった幻影――次の力を予感させるもの。


 三人は圧倒され、ただ立ち尽くす。


 聖竜はそのまま、森を見渡し、静かに語り始める。


『……なぜ我がこのような姿に堕ちたのか――語らねばなるまい』


 その声音は、深い哀しみを湛えていた

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