44本目・復活の刻
優衣の全身が、黒焔・フレイムファングと共に紅蓮の光に包まれていた。
「――聖剣焔舞・流星二十華!」
夜空を切り裂く流星群のごとき閃光が一斉に降り注ぎ、龍の鱗を灼き、瘴気の障壁を次々と穿っていく。
その隙を逃さず、きいが大地を蹴った。
「紅蓮獅爪裂破あぁぁっ!!!」
炎獅子の爪が実体化し、轟音と共に龍の胸を薙ぎ裂く。大地は炎で割け、炎柱が空を貫いた。
龍が苦悶の咆哮を上げた。
黒い瘴気が弾け飛び、鱗の奥、首元に埋め込まれた“禍々しい核”が露わになる。
「……あれが、瘴気の源……!」
優衣の瞳が強く光る。
全身の力を振り絞り、優衣はフレイムファングを逆手に構え直す。
「これで……終わらせるッ!!!」
燃え盛る刃が一点を貫き、瘴気の核を斬り砕いた。
――瞬間。
暗黒の瘴気が爆ぜ、周囲を飲み込むかと思いきや、逆に光に浄化されるように霧散していく。
龍の絶叫が轟き渡り、遺跡の天井を突き破るほどの衝撃波が広がった。
砕けた核から、まばゆい白光が迸る。
その光は瞬・優衣・きいを包み込み、冷たい瘴気を押し返し、世界を清めるように広がっていく。
「……な、なんだ……?」
瞬が黒焔・クワを支えに立ち尽くす。
龍の体を覆っていた黒鱗が次々に砕け落ち、下から現れたのは黄金と白銀に輝く鱗。
闇に蝕まれた巨影は、いま荘厳な光を纏い始めていた。
翼が広がり、羽ばたくたびに瘴気が霧散する。
瞳は深い蒼に澄みわたり、そこにあったのは敵意ではなく、悠久の慈悲と威光。
「まさか……これが……」
優衣が震える声で呟く。
「……《聖竜》……」
瞬の口から、その名が漏れた。
龍が天へと吠えた。
その声は怒りでも咆哮でもない――封印を破られ、真の姿を取り戻した“歓喜”だった。
遺跡が共鳴し、大地が震え、空が裂ける。
大気は澄み渡り、森に失われた緑が蘇る。
三人はただ、神話の復活を目の当たりにして立ち尽くすしかなかった。




