42本目・絶望
咆哮とともに、瘴気竜が再び喉を震わせた。
喉奥の魔力の流れが見える。
赤黒い光、瘴気と混じった灼熱の奔流――。
「くるぞ! また炎のブレスだ!」
瞬は黒焔・クワを地に突き立て、土壁を展開した。
今度は流れを読み切っている。
炎の進路を逸らすよう、壁を斜めに築き、爆風を受け流した。
轟音と熱風が吹き荒れ、土壁は焼け爛れながらも炎を押し返す。
「……やったか……!?」
きいが息を荒げながら顔を上げる。
だが――。
「いや、違う……」
優衣の声が震えた。
瘴気竜は地を蹴り、巨大な身体を宙へと舞い上げていた。
翼を大きく広げ、その羽根に炎と雷と氷の魔力が宿っていく。
赤、蒼、紫――三色の光が同時に弧を描き、空そのものが悲鳴を上げる。
「まさか……翼そのものに属性を……!」
瞬が顔を青ざめさせる。
次の瞬間、竜が翼を大きく振るった。
轟音が空を裂き、炎・雷・氷が混ざり合った暴風が渦を巻く。
三属性の竜巻――灼熱が肌を焼き、氷結が骨まで凍らせ、雷撃が心臓を撃ち抜く。
すべてを同時に呑み込む、絶対の嵐。
「な、なんだこれぇぇぇっ!?」
きいが悲鳴を上げる。
尻尾が逆立ち、体毛が焦げ、氷片が血をにじませる。
「――聖剣焔舞・流星二十華ッ!」
優衣は必死に黒焔を振るい、舞う炎刃で竜巻を斬ろうとする。
だが三属性が絡み合った嵐は、炎の剣閃を呑み込み、逆に押し返してきた。
「ぐっ……斬り裂けない……っ!」
優衣が押し潰されそうになる。
「優衣ッ!」
瞬は地面に黒焔・クワを叩きつける。
大地が唸り、無数の岩盤が立ち上がり、三人を包み込むように巨大な盾となった。
雷が岩を砕き、炎が焼き、氷が崩す。
それでも瞬は叫びながら次の壁を、さらに次の壁を築き続けた。
「折れるなら……立て直す! 砕けるなら……積み上げるッ!
俺が……絶対に……守るッ!!」
竜巻が大地を削り、遺跡の石柱を次々にへし折り、空間そのものを崩壊させる勢いで吹き荒れる。
その中心で、瞬の全身は血まみれ、腕は裂け、呼吸は限界に近づいていた。
「瞬っ……もう無理だよ! これ以上じゃ……っ!」
優衣が悲鳴を上げる。
「にゃ、にゃぁ……あたしも……力が……っ」
きいの炎爪は霧散し、ただ必死に地面へ爪を立てて耐えていた。
それでも――瞬は叫ぶ。
「まだだ……まだ、諦めねぇ!
こいつの力……必ずどこかに隙がある……! 俺が見つけるまで――倒れるわけにはいかねぇッ!!」
炎、雷、氷、瘴気が混ざり合う竜巻の中心で、瞬の瞳だけがぎらぎらと燃え盛っていた。




