表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/59

41本目・瘴気との邂逅

漆黒の大扉をくぐった瞬間、三人の体は重苦しい圧力に押し潰された。

空間そのものが敵意を持っているかのように、呼吸すらまともにできない。


 目に映るのは黒と赤の世界。

地面はひび割れ、亀裂からは瘴気混じりの炎が噴き出していた。

空には天井などなく、暗黒の渦が果てしなく広がり、そこから稲妻と氷塊、炎と霧が絶え間なく降り注ぐ。


 そして、その中心に――。


「……あれが……」

優衣が声を震わせた。


 巨大な竜がいた。

黒鱗は焼け爛れ、瘴気がそこから滲み出している。

片翼は炎に焼かれ続け、もう片翼は氷の結晶に蝕まれ、なおも広げて闇を覆っていた。

その眼は血のように赤く、ただ見下ろされるだけで、心臓を握られるような圧迫感に襲われる。


 ――瘴気竜。

禁忌の森が封じていた存在。


「瞬……正直、勝てる気がしない」

優衣は黒焔フレイムファングを強く握り締めながら、吐き出すように呟く。


「にゃ、にゃにゃ……足が勝手に震えるにゃ……」

きいは毛を逆立て、牙を剥きながらも、尻尾が下がりっぱなしだった。


 瞬はそんな二人を庇うように一歩前に出て、黒焔・クワを地面に突き立てた。

「……立ってるだけで精一杯だ。でもな、俺たちはここまで来た。引くわけにはいかねぇ」


 龍が喉奥を鳴らす。

大地そのものを揺らすような低音が響いた瞬間、口腔から赤黒い炎が奔流となって吐き出された。


「ブレスだ! 伏せろ!」

瞬が叫び、黒焔・クワを振り下ろす。


 地響きを伴い、大地が隆起して幾重もの土壁を作り上げた。

だが次の瞬間、それらは炎の奔流に飲み込まれ、灼熱の津波が押し寄せた。


 壁が砕け、溶け落ち、それでも瞬は次の壁を張る。

「まだだ……ッ! 砕けるなら、また築く!」

彼の両腕は震え、全身から血のような汗が滴り落ちていた。


「瞬っ! 無茶だ!」

優衣が叫ぶ。

きいは涙目で壁の隙間から見て、「こんなの、持つわけないにゃあっ!」と声を上げた。


 ようやく炎が収まった――と思った刹那。


「今度は……氷だ!」

瞬の声と同時に、天井の闇から無数の氷柱が槍のように降り注いだ。


「――聖剣焔舞・流星二十華!」

優衣が跳躍し、黒焔を振るう。

舞う炎刃が空を駆け、流星のように氷柱を斬り裂き、粉々に砕いた。

しかし、数が多すぎる。いくつかは優衣の肩をかすめ、血飛沫が舞った。


「くっ……!」

「優衣!」

瞬が咄嗟に駆け寄り、次の氷柱を土壁で受け止める。


 休む間もなく、今度は黒雷が奔った。

空間そのものを裂きながら、蛇のようにのたうち、一直線に三人へ。


「きい!」

「わかってるにゃ! ――紅蓮獅爪裂破ッ!!」


 炎を纏った爪が巨大化し、龍の爪の幻影となって空を裂いた。

炎の衝撃波が黒雷と激突し、轟音を立てて拮抗する。


 しかし、黒雷は瘴気を孕んでおり、炎を食らいながらも突き抜けてきた。


「ぐっ……!」

瞬が即座に石壁を構築するも、雷撃は貫通し、優衣の足元に炸裂した。


「きゃっ!」

衝撃で優衣が吹き飛び、きいが慌てて抱きかかえる。

「にゃぁぁっ! 大丈夫かにゃ!?」


 息を荒げ、優衣は黒焔を支えに立ち上がる。

「……まだ、やれる……っ」


 だが、龍の攻撃は止まらない。

炎、氷、雷、そして瘴気の霧が同時に渦を巻き、三人を呑み込まんと迫ってくる。


「……チッ、全部同時かよ!」

瞬は黒焔・クワを両手で握り直す。


 大地を震わせ、岩盤をせり上げ、炎を壁で受け、氷柱を逸らし、雷を土で吸わせる。

だが瘴気の霧は防ぎようがなく、肺を焼くように侵入してくる。


「ごほっ、ごほっ……! こいつ……息するだけで殺す気か!」

きいが咳き込み、優衣の膝が揺らぐ。


 瞬の意識が遠のきかけた――その時。


 大地の振動が、ふと別の「流れ」を伝えてきた。

地脈の震え、瘴気の流れ、力の源が一点に収束している感覚。


「……見つけた」

瞬の瞳がぎらりと光った。


「この空間自体が奴の力を増幅させてる……! なら、その根を断てばいい!」


 なおも龍の影が咆哮し、世界が揺れる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ