表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/59

40本目・瘴気の渦

扉が完全に開いた瞬間、凄まじい瘴気の奔流が吹き荒れた。

 瞬は咄嗟に 黒焔・クワ を地面へ突き立て、身体を支える。優衣は黒焔フレイムファングを逆手に構え、きいは全身の毛を逆立てて牙を剥いた。


「ぐっ……! 息が……苦しい……」

 空気は淀み、まるで生きた毒そのもの。視界が揺れ、耳鳴りが頭蓋を震わせる。


「立ってるだけで魔力を削られてるにゃ……!」

 きいの声も掠れる。猫の耳がぴくぴくと痙攣するように震えていた。


 足元の石床が脈打つように揺れ、赤黒い文様が広がっていく。

 その模様はまるで血管のように遺跡全体に走り、三人の足を絡め取ろうと蠢いた。


「こっちの力を、喰おうとしてやがる……!」瞬が歯を食いしばる。

 黒炎のダガーを握る優衣の手が震える。刃が小さく唸り、瘴気を拒むように燃え上がった。

「……《フレイムファング》が震えてる。中に……何かいる」


 瘴気はただの毒ではない。

 その底から響くのは、確かな意思を伴った「声」だった。


――侵す者よ……その魂を捧げよ。

――力を望むなら、肉を差し出せ。

――拒むなら、ここで果てよ。


 低く重い声が三人の頭を揺らす。幻聴ではない、遺跡そのものが語りかけているかのようだった。


「……ッ、聞こえた?」優衣の額に汗が滲む。

「あぁ。どうやら歓迎はされてねぇらしいな」瞬が黒焔・クワを引き抜き、肩に担ぎ直す。

「にゃぁ……声が胸の奥を抉ってくるにゃ。でも、絶対に進むにゃ!」


 三人は互いを見て頷き合う。

 震える心を押さえつけながらも、もう後には退けない。


 扉の奥へと一歩足を踏み入れると、瘴気はさらに濃く、足を取られるほどの重圧となった。

 だが同時に、冷たい空気の奥から――「息遣い」が確かに響いてきた。


 地を這うような重い吐息。

 空間そのものを震わせる鼓動。

 闇の奥で、確かに“何か”が目を覚まそうとしている。


「……なぁ、優衣」瞬が低く呟く。

「うん、分かってる。ここにいるのは……ただの魔物じゃない」

「にゃ……強い。すっごく、強い。わたしたちが試されてるみたいにゃ」


 三人はそれぞれ武器を構え直した。

 黒焔・クワが地を裂くように唸り、フレイムファングが禍々しく燃え、猫の爪が光を反射する。


 そして、瘴気の奥――暗闇が渦を巻き、形を取り始める。

 巨大な影がゆっくりとその姿を現そうとしていた。


「来るぞッ!!」瞬の叫びと同時に、空間全体が轟音を上げた。

 瘴気の渦の中心、漆黒の巨影が、ついに姿を――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ