4本目・猫!?ねこ!?ネコ!?!?
重厚な扉を押し開けた瞬間、むっとするような酒の香りと、肉を焼く香ばしい匂いが一気に押し寄せてきた。
ギルドの内部は酒場のように賑やかで、豪快に笑う冒険者たちの声、木のテーブルにジョッキがぶつかる音、そして料理が運ばれる匂いが混ざり合っている。
「うわぁ……ここもまた、すごいね」
優衣が呟き、瞬は興奮を抑えきれないように辺りを見回す。
その時――
「くしゅんっ!」
小さなくしゃみの音が響いた。
きいだ。
鼻をひくひくさせていた彼女が、強烈な酒と料理の匂いに耐えきれず、盛大にくしゃみをしたのだ。
だが次の瞬間。
「――ぶわっ!」
きいの口から、赤々とした炎が飛び出した。
それは燭台の火を一瞬でかき消すほどの勢いで放たれ、空気を焼く。
「なっ……!」
瞬と優衣は凍りついた。
ギルド内の喧騒がぴたりと止まる。
ジョッキを傾けていた大柄な獣人の男も、カードゲームに夢中になっていた小人の冒険者も、皆が一斉にこちらを振り向いた。
「……今、猫が火を吹かなかったか?」
「見間違いじゃねえだろ……」
ざわめきが広がる。
受付カウンターの奥に立つのは、長い銀髪と尖った耳を持つエルフ風の女性だった。
彼女もまた目を丸くして口元に手を当て、瞬たちを凝視している。
きいはといえば、自分の口から炎が出たことなど気づいていないかのように首をかしげ、
「にゃ? なにかあったにゃ?」
と無邪気に鳴いている。
瞬は額に冷や汗を浮かべ、周囲の視線に耐えながらごまかすように笑った。
「……あー……ちょっと特殊な猫でして……」
優衣は青ざめた顔で瞬をつつき、必死に小声で囁く。
「ど、どうするのよ!? このままじゃ、目立ちすぎる!」
瞬はタバコの箱を握りしめ、心の中で舌打ちする。
――まさか、きいが火を吹くなんて聞いてないぞ。