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37本目・遺跡の嘆き

遺跡の中は、外の森以上に冷たかった。

湿った空気が肌にまとわりつき、時折、誰かの息のような冷気が首筋を撫でる。


「……うわ、やだここ。絶対なんかいる」

優衣が剣を構えたまま辺りを睨む。


「にゃ……いるけど、形がないにゃ」

きいの耳がぴくぴくと震える。瞳が光を反射して細くなり、まるで闇の中でも何かを見通しているようだった。


 壁に刻まれた古代文字がぼんやりと赤黒く光り、やがて低い声が響いた。


――侵入者……供物を……。


「っ!? 聞こえた?」

優衣が肩を震わせる。


「聞こえたけど……音じゃなくて、頭に直接響くやつだな」

瞬が顔をしかめる。


 遺跡の奥には、大きな石扉があった。

扉の中央には三つのくぼみ――まるで“鍵”をはめるような穴がある。


「鍵……探せってことか」

瞬が近づこうとした瞬間、床の石板がずるりと沈み、冷たい風が吹き抜けた。


 とたんに、通ってきたはずの道が闇に飲まれて消えていく。


「な、なんで道が消えるのよ!?」

「にゃぁぁぁぁ!? 戻れなくなったにゃ!」


「……もう進むしかねぇな」

瞬は鍬を握りしめるが、その前にきいが一歩進み出た。


「まってにゃ。こういうの、わたしの得意分野にゃ」


 きいは四つん這いになり、鼻をひくつかせ、耳をぴんと立てる。

壁や床を軽く叩きながら進んでいくと――。


「ここにゃ。風の音が違う」

きいが示した壁の一部を押すと、石が音を立ててずれ、隠し部屋が現れた。


「……やるじゃん!」優衣が思わず声を上げる。


 中には石像が一体。

その胸には、青く輝く“宝珠”が埋め込まれていた。


「これが……鍵のひとつか」

瞬が手を伸ばそうとしたとき、石像の目が赤く光り、ぎしりと動き出した。


「にゃーーっ! 出たにゃ!」

「ほらやっぱりそうなるのよ!」

「落ち着け! 俺がやる!」


 瞬と優衣が構えるが、石像の動きは重い。

その隙を突いて、きいが身軽に跳ね上がり、石像の首に飛びついた。


「んにゃぁぁっ!」

鋭い爪で目を引っかき、石像が呻き声のような音を発する。

その隙に瞬が鍬で胸を叩き割り、宝珠が床に転がり落ちた。


 青い光が扉のくぼみの一つに吸い込まれ、かすかに開く音が響く。


「きい、ナイス!」

「ふふん、わたしだってやる時はやるにゃ」

きいが胸を張り、得意げに尻尾を振った。


 だが――まだ扉は完全には開かない。

あと二つ、同じように“試練”を越える必要があるようだった。


「まだ続くのか……」

瞬が汗を拭い、優衣が剣を握り直す。


 赤黒い文字が再び輝き、頭の中に囁きが響く。


――供物を……すべて捧げよ……さすれば道は開かれん……。


 三人は顔を見合わせ、息を呑んだ。

この遺跡の仕掛けは、まだ始まったばかりだった。

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