36本目・迷いの森のさらなる奥へ
森を歩き始めてどれほど経ったのか――。
時間の感覚がどんどん狂っていく。
最初はただ暗いだけだと思っていたが、木々はどれも似たような形をしており、進んでも進んでも同じ景色が続いていた。
「……ねぇ、これ。ぐるぐる同じとこ回ってない?」
優衣が剣を下げ、周囲を見渡す。
「にゃ……さっきの倒木、もう三回は見てる気がする」
きいの耳と尻尾が落ち着きなく動く。
「迷いの仕掛けか……やっぱり“禁忌”ってのは伊達じゃねぇな」
瞬は鍬を杖のように突きながら、唇を噛んだ。
進んでいるのに出口が見えず、疲労ばかりが蓄積していく。
やがて、足取りが重くなり、仲間の間にも沈黙が流れ始めた。
「……こんなんで、本当に奥まで行けるのかしら」
優衣の声に、不安が滲む。
そのとき、瞬がふっと笑った。
「大丈夫だ。俺たちなら行ける」
「……なんでそんなに言い切れるの?」
「だって……どんな森でも、土は嘘をつかねぇからな」
瞬は鍬を地面に突き立て、土を掘り返した。
すると、他の場所より柔らかい黒土が顔を出す。
「ほら見ろ。人が通った跡だ。誰かが抜けた道なら、俺らも行ける」
「……っ!」優衣の目が見開かれる。
「……鍬、頼りになるじゃない」
「にゃ、やっと役に立ったにゃ!」きいが笑い、場の空気が少しだけ和らぐ。
瞬が土を頼りに進むたび、森の“幻”のような景色が揺らぎ、少しずつ正しい道筋が見えていく。
やがて――。
「……光?」
遠く、木々の隙間に、奇妙な輝きが見えた。
三人が進むと、そこにはぽっかりと開けた空間があった。
そして、その中央に――“遺跡”が眠っていた。
崩れかけた石のアーチ。
苔むした石柱。
壁面には、意味の分からない古代文字が刻まれている。
「なんか……やな感じにゃ……」
きいが尻尾を膨らませる。
優衣は剣を抜いたまま、じっと遺跡を見据えた。
「これ、ただの遺跡じゃない。瘴気が濃い……中に“何か”いる」
「……だろうな」
瞬は鍬を肩に担ぎ、前に出た。
「けど、ここを越えなきゃ奥に進めねぇ。行くぞ」
三人は互いに頷き、闇に包まれた遺跡の内部へと足を踏み入れていった。
その先に待ち受けるのは、ただの魔獣ではなく――
古の龍へと続く、試練の第一段階だった




