33本目・出発の朝
まだ朝日が昇りきらない時間。
瞬と優衣、きいは静かに荷物を整えて、自分たちの家の扉を開けた。
「……ギルドに寄ったらまた大騒ぎになるからな」
瞬が小声で言うと、優衣は小さく頷いた。
「うん。できるだけ心配かけたくないし」
「ひっそり出発にゃ……」ときいも眠そうに目をこすりながら続いた。
だが――扉を開けた瞬間、目の前に広がったのは人だかりだった。
「お、おい……なんで……?」
驚く瞬。
そこには、ギルド仲間たち、ゴロツキ組、ドワーフ兄弟、エリン、そして街の子どもたちまで。
皆が家の前に集まり、彼らを待っていたのだ。
「ふふ、隠れて行くつもりだったんだろ?」
ガイモンが腕を組んで笑う。
「だが街の連中、みんなお前らのこと気になって眠れなかったんだよ」
エリンが一歩進み出て、にっこり微笑んだ。
「危険な場所に行くのに、見送りもしないなんてできませんから」
瞬は言葉を詰まらせたが、優衣が前に出て頭を下げた。
「……ありがとう。必ず戻ってくるから」
その言葉に、子どもたちが元気に叫ぶ。
「鍬神さま、がんばってー!」
「優衣お姉ちゃん、絶対帰ってきてねー!」
「きいー! おみやげー!」
ドワーフ兄弟が瞬に鍬を手渡す。
「ほら、しっかり持て。これがなきゃ始まらねぇだろ」
「俺は鍬だけで十分だ」
そう言い張る瞬に、皆が苦笑する。
最後に、ギルドマスターのハインズが人ごみをかき分けて進み出る。
「わしに黙って行く気だったのか。……困った奴らじゃ」
白髭を揺らしながら、しかし目は優しかった。
「必ず帰って来い。わしの手で酒を注いでやらんとな」
瞬は仲間たちを振り返り、静かに頷く。
「行ってくる」
その一言に、大きな拍手と声援が響いた。
背中を押すようなその音に支えられながら、三人は禁忌の森へと歩みを進めていった。




