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31本目・禁忌のクエスト

その日もギルド酒場は活気に溢れていた。冒険者たちが昼間から大声で笑い、酒をあおり、依頼の成功や失敗を語り合う。奥の大きなテーブルでは、いつものように瞬・優衣・きいが並んで座っていた。


「ねぇ瞬、最近のクエストちょっと物足りなくなってきたかも」

優衣が銀のフォークをくるくる回しながら言う。

きいはその膝の上で丸まり、尻尾をぱたぱたと振っていた。


「贅沢言うなよ、昨日だって森の魔獣退治で結構大変だったろ」

瞬は苦笑しながらも、テーブルに置いた鍬を撫でる。相変わらず鍬を持ち歩く姿に、周りの冒険者がひそひそと「鍬神だ」と囁いて笑っていた。


 そこへ、ギルドの受付嬢エリンが足早に近づいてきた。いつもはにこやかな彼女が、今日はどこか緊張した表情をしている。


「瞬さん、優衣さん、きいちゃん。ギルドマスターが呼んでいます。大事なお話があるそうです」


 3人は顔を見合わせると、奥の部屋へと向かった。

重い扉を開けると、そこには白い髭を長く蓄えた老人――ギルドマスターのハインズが、椅子に腰掛けて待っていた。


「おお、よく来てくれたのう。そこへ座れい」

低く、しかしどこか温かみのある声。彼の背後の壁には、古びた地図や数々の依頼書が額装されて飾られている。


「さて……お主らには、わしから特別に頼みたい依頼がある」

ハインズの目が細まり、深い皺の中で光る。


「禁忌の森……聞いたことはあるかの?」


 瞬は首を傾げ、優衣は少しだけ身を固くした。

きいが小さな声で「なんかヤバそうな名前だにゃ……」と呟く。


「禁忌の森は、古代から魔障に侵されし地。多くの冒険者が挑んでは帰らず、依頼は途絶え、長らく放置されておる。だが……近頃、森の瘴気が強まり、このままでは街にまで影響が及ぶやもしれん」


「それで、私たちに?」と優衣が問う。


「うむ。普通の冒険者では無理じゃ。しかし、お主らならあるいは……」

ハインズは一瞬、言葉を切った。老いた目に、過去の苦い記憶がよぎる。


「……若い頃、わしも挑んだことがある。だが仲間を失い、何もできずに逃げ帰った。心残りでのう」

彼は酒を仰ぐように喉を鳴らし、深く息を吐いた。


「依頼主はとうに亡くなっておるゆえ、報酬はない。あるのは危険と……古の龍との死闘のみじゃ」


「古の龍……?」

瞬の胸が高鳴った。鍬を握る手が、無意識に力を込める。


「うむ。ただの龍ではない。火・雷・氷・風に加え、魔障までも操る化け物。まるで五つの災厄を束ねたような存在じゃ。誰一人として討伐に成功しておらん」


「……燃えてきた」

優衣がにやりと笑う。その横で、きいが「燃えるどころか焦げるにゃ!」と必死に止めようとするが、瞳はやはり冒険心に輝いていた。


 ハインズはそんな3人を見て、ふっと笑った。

「本当に、お主らはわしらの若い頃を思い出させる……無茶を承知で挑む姿がの」


 そして、机の上に一枚の古びた依頼書を置いた。羊皮紙は黄ばんでおり、角は擦り切れている。


『禁忌の森の浄化と、古の龍の討伐』


「……これが、古の依頼じゃ。どうするかはお主ら次第。無理をせんでもよい。しかし――」

ハインズは真っ直ぐに3人を見据えた。

「もしやり遂げられるのならば、この街の未来は救われる」


 優衣は依頼書を見つめ、静かに頷いた。

「行くよ、瞬。きい」


「……あぁ」

「にゃあ……もう、付き合うしかないにゃ」


 こうして、誰も果たせなかった“いにしえのクエスト”に、瞬・優衣・きいが挑むこととなった。

その行く先に、伝説の存在との邂逅が待つことを知らぬまま――。

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