総集編 ― 鍬神と仲間たちの歩み ―
夕暮れ時、郊外に建てた新しい家の縁側。
瞬と優衣ときいは、今日も畑仕事と街での買い物を終えて、腰を下ろしていた。
風が心地よく吹き抜け、焚火の火がぱちぱちと音を立てる。
「……こうして落ち着いて座ってると、あっという間だった気がするな」
瞬が煙草を一本ふかしながら呟いた。
「そうね。私も、ここまで来るのにいろんなことがあったと思う」
優衣は柔らかい微笑を浮かべる。
「わたしたちは……最初から“にゃんだこれ”の連続だったにゃあ」
きいが前足で毛づくろいしながら頷く。
■ 召喚の日
瞬が思い返す。
「朝起きたら、いきなり異世界に召喚されててよ……広大な見知らぬ土地で、タバコを探したら残り1箱しかなくて」
優衣がクスッと笑う。
「本当に最初からそればっかり。タバコ、タバコって」
きいが尻尾を揺らす。
「でもその“ニコチ草”探しが、わたしたちの最初のクエストになったにゃ。優衣とわたしが頑張って、瞬のために見つけてきたんだにゃ」
■ ワイバーンとの激闘とドワーフ兄弟
「そのあと、街の外でライトウルフの群れと遭遇して……」
優衣の目が細くなる。
「あのとき出会ったのよね、ガイエン。薬草を背負ったドワーフの男」
きいが補足するように言った。
「でもそこに現れたのが、赤黒いワイバーンにゃ!ただの冒険者じゃ太刀打ちできない相手だったにゃ」
「きいが挑発して囮になって……お前、無茶しやがったよな」
瞬が苦笑いする。
「ぎにゃあああって必死だったにゃあ!」
きいは顔を赤くしながら抗議するが、優衣は真顔で続ける。
「でも最後は私が剣神スキル《聖剣舞・流星二十華》で倒した。あの光の剣舞は、今でも忘れられない」
「そうしてギルドで分かったんだ。あのガイエンは、ガイモンの弟だったって」
瞬が思い出す。
「ガイモンは俺が意気投合したドワーフ職人でさ、ニコチ草の加工も教えてもらったよな」
■ 黒焔の武具と伝説の鍬
「ガイモンと一緒に黒いクリスタルを使って、私の武器を作ってくれたんだよね」
優衣が誇らしげに腰のダガーを叩く。
「伝説クラスのダガー《黒焔・フレイムファング》」
きいがクスクス笑う。
「でも瞬は“武器じゃなくて鍬が欲しい”って言ったにゃ。あれが伝説の鍬《黒焔・クワ》の誕生にゃ」
「……あのときの笑いはすごかったよな。ドワーフ兄弟も冒険者も、全員腹抱えてた」
瞬は顔を覆った。
「まさか“農民の鍬神”なんて異名つけられるとは思わなかったぜ」
■ 街と仲間と、宴の夜
「でもその“鍬神”って噂が広まってからは、瞬のこと毛嫌いしてた冒険者も面白がって近づいてきたよな」
優衣が肩をすくめる。
「ギルド酒場では瞬のおごりってことで大騒ぎだったにゃ。“農民の鍬神”“黒焔ワイバーン討伐の女傑”“最強の猫”……派閥が分かれて大笑いだったにゃ」
「お前、最後は“猫”で雑にまとめられてたよな」
瞬が突っ込み、きいは「ひどいにゃああ!」と抗議する。
■ 家と畑と仲間たち
「そうして郊外のボロい家を見に行って、みんなで買い取ったんだよな」
瞬が言えば、優衣が続ける。
「ドワーフ兄弟やギルドマスター、受付嬢のエリンまで様子を見に来てくれて、最後は庭で大宴会になった」
「そのあと、きいのお部屋作ろうってしたのに結局“優衣ママのそばが一番落ち着くにゃ”ってなったんだよね」
優衣は笑いをこらえきれず、きいはぷいと横を向く。
■ 魔族リリスとの出会い
「街で出会ったリリス……最初はただの綺麗なお姉さんだと思ったけど、ギルドの奥で正体を知った」
優衣が真剣な声で言う。
「三魔族の中でも最上位、三体しかいない《ハイエンドデーモン》のひとり」
「でも人間を攻撃しないように、自ら呪をかけて力を封印してたんだよな」
瞬は煙を吐きながら思い返す。
「ギルドマスターとは昔は敵同士だったらしいが、今は信頼し合う酒飲み仲間……なんか羨ましい関係だったな」
「模擬戦では瞬の鍬が本当の力を見せ始めたにゃ。小さな豆粒を、一瞬で天空に届く豆の木に成長させたんだにゃ」
「……あれは本気で焦った。天変地異級の力だぞ」
優衣は少し険しい表情になる。
「リリスから“鍬神”の名を正式に呼ばれて、逆に瞬が恥ずかしがってたのが印象的」
「しかも宴会で“鍬神ダサい!”って瞬が不満爆発させてたのに、リリスのひとことで結局“鍬神”で固定されたにゃ」
きいが笑いながら付け加える。
■ 今、そしてこれから
「……こうして思い出すと、本当にいろんな人に助けられてきたのね」
優衣がしみじみと呟く。
「ガイモンとガイエンの兄弟。ギルドマスターに受付嬢のエリン。悪友みたいな冒険者たち。リリスも仲間になって……」
瞬が指を折って数える。
「なんだかんだで、人との縁に恵まれてきたんだな」
「にゃ。わたしたち、ただの猫と人間だったのに……今はこんなに仲間がいるにゃ」
きいが尻尾を揺らし、ぽつりと呟いた。
三人はしばし沈黙し、夜空を見上げる。
星々は瞬き、彼らの未来を照らしているかのようだった。
「――よし」
瞬が立ち上がり、鍬を担ぐ。
「これからも畑を耕して、タバコ育てて……で、ついでに世界も耕してやるさ」
「ふふっ、ほんと鍬神ね」
優衣が笑い、きいが大声で抗議する。
「にゃああ!わたしは猫じゃないにゃああ!」
笑い声が夜空に溶けていった。




