30本目・種族を超えた宴
結局その日の夜は、いつものギルド酒場で大宴会となった。
ハインズ、エリン、リリスに加え、ドワーフ兄弟のガイモンとガイエン、さらには瞬の悪友となった冒険者のゴロツキたちまで勢揃い。
テーブルには肉と酒と笑い声があふれた。
「よぉ鍬神!乾杯だ!」
「……だから、その呼び名やめろって言ってんだろ!」
瞬はジョッキを振り上げながらも、不満を爆発させる。
「なんだよ鍬神って!もっとこう……《黒焔の操葉者》とか《大地の裁定者》とか!カッコいいのあるだろ!」
その場は大爆笑。
リリスが肩を震わせながら赤ワインを口に含み、にやりと一言。
「……でも“鍬神”が一番似合ってるわ。あなただけの異名よ」
「ぐぅっ……!」
リリスの一言に誰も逆らえず、結局“鍬神”は確定となった。
そんな中、きいが水を飲もうとして――間違えてエールをぐいっと。
「ぷはぁぁぁっ! ……わたしだって不満があるにゃ!わたしなんか……ただの“猫”だにゃぁぁぁぁ!!」
その叫びに、場が一瞬静まり――次の瞬間、大爆笑が巻き起こる。
「猫じゃないのか?」
瞬がニヤニヤしながらポケットを探り、ゼリー状のおやつを取り出した。
「ほら、チュールみてぇなやつあるぞ」
「にゃああああ!ちょうだい!ちょうだいにゃ!!」
きいは目を輝かせ、勢いよく飛びついてきた。
「ほら見ろ!猫じゃねぇか!」
瞬が大笑いすると、きいは口いっぱいにおやつを頬張りながらも
「……これがもらえるなら、猫でいいにゃ……」
とぼそり。
その様子に優衣も思わず吹き出し、
「からかいすぎよ、瞬」
とたしなめつつも、目じりを緩めていた。
こうして、“鍬神”瞬と“女傑”優衣、“猫”きい。
新たな仲間リリスを迎え、ギルド酒場は夜遅くまで笑いと酒で溢れ続けた。
そして、異世界での新しい日常がまた一歩、彼らの色に染まっていったのだった。




