3本目・トリスタン
高い城壁をくぐると、そこは想像をはるかに超えた世界だった。
「……すごい」
優衣が思わず声を漏らす。
街の名前は トリスタン。
門を抜けた瞬間から、目の前には絵本のように鮮やかな光景が広がっていた。
石畳の大通りは多種多様な人々であふれかえっている。
狼の耳を揺らしながら荷車を押す屈強な獣人族。
すらりとした肢体に長い耳を持つ美男美女のエルフのような種族。
そして子どもほどの背丈ながら、堂々と樽を担ぐ小人の種族――ドワーフのように見える。
「人間だけじゃない……」
優衣は瞬の袖をぎゅっと掴み、好奇心と警戒が入り混じった目で周囲を見渡す。
一方の瞬は、胸を弾ませながら足を止めることなく進んでいた。
「なんだよこれ、最高じゃねえか。ほら、見ろよ優衣。焼き串に果物飴、揚げ菓子に酒……まるで夏祭りみたいだ!」
通りの両脇には所狭しと露店が並び、香ばしい肉を焼く煙や、色とりどりの果物を使ったお菓子が目を奪う。
革細工や宝石を埋め込んだアクセサリーもあり、行き交う客の笑い声や呼び込みの声が絶えない。
「にゃっ!」
きいが鼻をひくひくさせ、ぐいぐいと前に出る。
「お、きい。どこに行くんだ?」
「におうにゃ。大勢の人間が集まって、剣や鎧の匂い……きっと冒険者ギルドにゃ!」
猫本来の嗅覚に加えて、この世界に来てからさらに研ぎ澄まされた感覚を頼りに、きいは迷いなく細い路地へと駆け込む。
瞬と優衣は顔を見合わせ、慌てて後を追った。
雑踏を抜け、石造りの建物が立ち並ぶ一角に入ると、やがて目の前に現れたのは重厚な木製の扉と、大きな剣と盾の紋章が掲げられた建物。
「……ここだな」
瞬は息を整えながら呟く。
「にゃふふ、間違いないにゃ。ここが冒険者ギルドにゃ!」
活気ある街の喧騒を背に、瞬たちは大きな扉を押し開けた――。