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26本目・優衣の日常

小鳥のさえずりと、窓から差し込むやわらかな陽の光。

目を開けると、すぐ横で丸まって眠っているきいの温もりがあった。

そして、机の方からは「ぐぬぬ……もうちょっとふかふかに……」と土をこねる音。


「……瞬、また畑いじってるの?」

まだ寝癖のついたパジャマ姿のまま問いかけると、

瞬は振り返って、子供のような笑顔を浮かべた。

「見ろよ優衣! ニコチ草、昨日より葉っぱが伸びてる!」


――そんなことで毎朝報告しなくてもいいのに。

でも、その目が本当に楽しそうだから、優衣はつい微笑んでしまう。



服に着替え、腰に黒焔・フレイムファングを差す。

まだ見慣れないけれど、この世界の衣服は意外と動きやすくて気に入っていた。

台所に立ち、昨日市場で買った食材で簡単なスープを作る。

パンを添えて、朝食の出来上がり。


きいはテーブルに前足を乗せて覗き込み、

「今日のもおいしそうにゃ」

と当たり前のように言う。

瞬は「まずはニコチ草を乾燥させてだな……」とまだ葉っぱの話。


「……はいはい、食べる前に植物のこと忘れないでよね」

呆れながらも、スープをよそってやる。

こうして三人で食卓を囲む時間が、優衣にとっては一番安心できるひとときだった。



午前中は街へ出かける。

家具屋をまわり、少しずつ家を整えていくのが今の楽しみ。

昨日はきいのための部屋を作ったけれど、やっぱり膝の上から離れないから意味はなかった。

――まあ、それも愛しい。


露店で新しい食器を見つけて、ついまとめ買いしてしまう。

「こんなに買ってどうするんだろうね」って自分でも思うけど、

異世界での暮らしをちゃんと形にしたい。

瞬ときいと、この世界で“家族”として暮らしているって証が欲しいのかもしれない。



昼過ぎ。

ギルドに顔を出すと、受付嬢が笑顔で迎えてくれる。

「優衣さん、今日はクエストどうします?」

「軽い採取でいいかな。きいも疲れてるし」


けれど、周囲の冒険者たちはちらちらこちらを見てひそひそ話。

――“ワイバーンを斬り裂いた女傑”。

そんなふうに呼ばれているのを、優衣は耳にしている。


「……別に、すごいことをしたいわけじゃないのに」

心の中で小さく呟きながらも、笑顔を返して依頼を受ける。

だって、強さがあるなら使わなきゃ。

きいと瞬を守るために。



夕暮れ時。

買ったばかりの食器で晩ごはんを並べる。

きいは相変わらず膝の上。

瞬は畑の話ばかり。


「ふふ……ほんとに変わらないね、瞬」

でも、その“変わらない日常”こそが優衣にとって一番の幸せだった。


布団に入る前、きいを撫でながら思う。

――いつか元の世界に帰れるのか、わからない。

でも、この世界で過ごす日々を大切にできるなら、それでいいのかもしれない。


そうして、優衣の一日は静かに終わっていった。

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