25本目・猫大地に立つ
にゃふ……今日のパパ(瞬)はなんだか落ち着きがなかった。
畑のニコチ草のことでもなく、鍬のことでもない。
工房の奥でごそごそして、何やら鉄や革をいじっていた。
「……よし! 完成だ!」
振り返ったパパの手には――小さな鎧と兜。
「見ろよきい! これはお前専用の防具だ! 名付けて“ねこアーマーMk.Ⅰ”!」
「……にゃ?」
あたしは首を傾げた。
パパは必死で説明する。
「ほら、冒険者になるんだろ? だったら装備が必要だ! 牙や爪だけじゃ危ないし……俺が守ってやるんだ!」
確かに気持ちは嬉しい。
でも……着てみたら重い。歩くたびにガチャガチャ音が鳴って、全然身軽に動けない。
「にゃぁぁ……重いにゃ……」
一歩も動けず、ぺたんと座り込んでしまった。
横でママ(優衣)が呆れ顔で言った。
「瞬、きいは軽やかに戦うから強いのよ。重装備なんて逆効果」
「ぐぬぬ……だが、俺は……!」
パパは頭を抱え込んで悔しそう。
でもあたしはクッションに転がりながら思った。
――やっぱり、ママの言うとおりにゃ。
◇
そして数日後。
あたしの「冒険者ギルド正式登録試験」が行われることになった。
ギルドの広場には、冒険者たちや市民が見物に集まっていた。
試験官が言う。
「では、模擬戦形式でその実力を示せ!」
にゃぁ……仕方ない。
あたしは爪を構えて、集中した。
体の奥から熱がこみ上げてくる。
――そして、発動した。
【紅蓮獅爪裂破】。
轟音とともに、爪が炎を纏い、龍や獅子の“炎の爪”が実体化して大地を切り裂いた。
一閃ごとに地面が灼熱の亀裂となり、炎柱が空へと突き抜ける。
観衆の声が悲鳴と歓声に入り混じる。
「な、なんだあの猫は!?」
「伝説級の大技だぞ!」
「紅蓮獅爪裂破……まさか、かつての英雄の必殺……!」
炎が収まり、黒焦げの大地にあたしが立っていた。
爪の先からまだ赤い余熱が揺らめいている。
「……にゃっ」
一声鳴くと、静まり返った広場が大喝采に包まれた。
◇
試験官は満面の笑みで宣言する。
「合格! 本日をもって“武闘派猫きい”は冒険者として正式に登録する!」
人間たちは口々に叫んでいた。
「鍬神、女傑に続いて、今度は炎の猫か!」
「街の守護者は三人(?)だったんだ!」
……にゃぁ。
あたしはまた新しいあだ名がついてしまったらしい。
でも、ママが嬉しそうに抱き上げてくれたから、それで十分にゃ。




