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25本目・猫大地に立つ

にゃふ……今日のパパ(瞬)はなんだか落ち着きがなかった。

畑のニコチ草のことでもなく、鍬のことでもない。

工房の奥でごそごそして、何やら鉄や革をいじっていた。


「……よし! 完成だ!」

振り返ったパパの手には――小さな鎧と兜。


「見ろよきい! これはお前専用の防具だ! 名付けて“ねこアーマーMk.Ⅰ”!」


「……にゃ?」

あたしは首を傾げた。


パパは必死で説明する。

「ほら、冒険者になるんだろ? だったら装備が必要だ! 牙や爪だけじゃ危ないし……俺が守ってやるんだ!」


確かに気持ちは嬉しい。

でも……着てみたら重い。歩くたびにガチャガチャ音が鳴って、全然身軽に動けない。

「にゃぁぁ……重いにゃ……」

一歩も動けず、ぺたんと座り込んでしまった。


横でママ(優衣)が呆れ顔で言った。

「瞬、きいは軽やかに戦うから強いのよ。重装備なんて逆効果」


「ぐぬぬ……だが、俺は……!」

パパは頭を抱え込んで悔しそう。

でもあたしはクッションに転がりながら思った。

――やっぱり、ママの言うとおりにゃ。



そして数日後。

あたしの「冒険者ギルド正式登録試験」が行われることになった。

ギルドの広場には、冒険者たちや市民が見物に集まっていた。


試験官が言う。

「では、模擬戦形式でその実力を示せ!」


にゃぁ……仕方ない。

あたしは爪を構えて、集中した。

体の奥から熱がこみ上げてくる。


――そして、発動した。


紅蓮獅爪裂破ぐれんしそうれっぱ】。


轟音とともに、爪が炎を纏い、龍や獅子の“炎の爪”が実体化して大地を切り裂いた。

一閃ごとに地面が灼熱の亀裂となり、炎柱が空へと突き抜ける。

観衆の声が悲鳴と歓声に入り混じる。


「な、なんだあの猫は!?」

「伝説級の大技だぞ!」

「紅蓮獅爪裂破……まさか、かつての英雄の必殺……!」


炎が収まり、黒焦げの大地にあたしが立っていた。

爪の先からまだ赤い余熱が揺らめいている。


「……にゃっ」

一声鳴くと、静まり返った広場が大喝采に包まれた。



試験官は満面の笑みで宣言する。

「合格! 本日をもって“武闘派猫きい”は冒険者として正式に登録する!」


人間たちは口々に叫んでいた。

「鍬神、女傑に続いて、今度は炎の猫か!」

「街の守護者は三人(?)だったんだ!」


……にゃぁ。

あたしはまた新しいあだ名がついてしまったらしい。

でも、ママが嬉しそうに抱き上げてくれたから、それで十分にゃ。

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