23本目・番外編 きいの一日
にゃあ……。
あたしの名前は「きい」。
前はただの家猫だったのに、気がついたらママ(優衣)とパパ(瞬)と一緒に、変な世界に来ちゃった。
けどまあ、ママがそばにいてくれるなら、どこにいたって安心なのにゃ。
今日の朝も、ママの布団の上で丸くなって起きた。
ママは「おはよ、きいちゃん」って撫でてくれる。
パパは……机でまたニコチ草って葉っぱを眺めてた。
いつ見ても葉っぱばっかり見てるにゃ。
「お前は葉っぱ観察おじさんか!」って心の中で突っ込んでおいた。
◇
昼頃、パパが畑に作ってくれたカカシを見に行った。
ただのカカシかと思ったら、これがなかなか手応えあるにゃ。
藁がぎっしり詰まってるし、蹴るとぐらっと動くから、つい本気で挑んじゃう。
「にゃっ! にゃにゃにゃにゃ!」
前足で連撃、後ろ足でけりけり。
仕上げは噛みつきだ!
すると――通りがかったおじさん冒険者が、目をまんまるにして言った。
「な、なんだあの猫!? 戦ってやがるぞ!」
「ただの猫じゃねぇ! 武闘派だ!」
気がついたら人だかりができていて、拍手までされちゃった。
ちょっと恥ずかしいけど、誇らしい気持ちもあるにゃ。
◇
午後はママのお手伝い。
洗濯物を干しているママの横で、ごろごろ転がって日向ぼっこするのが幸せ。
ママは「きいちゃんは手伝いになってないよ~」って笑ってたけど、
ママを癒やすのも大事な仕事だと思うにゃ。
一方のパパは畑の土をいじりながら「もっとふかふかに……もっとふかふかに……」ってつぶやいてた。
正直、ちょっと怖かった。
◇
夕方。
またカカシ相手に稽古してたら、街の子供たちまで見に来て、
「きいちゃんかっこいい!」って大はしゃぎ。
……かっこいい?
猫なのに?
ま、悪くないにゃ。
その様子を見ていたギルドの人たちが「“武闘派猫”きい」という変なあだ名をつけて笑ってた。
うーん……なんか響きが雑にゃあ。
◇
夜。
ママとパパと一緒にご飯を食べて、ママの膝の上で丸まった。
「きいちゃん、今日もいっぱい動いたね」ってママが優しく撫でてくれる。
やっぱり、あたしの場所はここなのにゃ。
外では「鍬神の瞬」だの「ワイバーン討伐の女傑」だの言われてるけど、
あたしはあたしでいい。
ママとパパと一緒に暮らせるなら、それが一番幸せなんだ。
にゃふ……おやすみにゃ。




