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21・それぞれの時間

翌朝。

夜の宴の余韻がまだ残る中、庭に立った瞬は腕を組み、目の前の耕された土をじっと見つめていた。

《黒焔・クワ》で整えたばかりの畑は、まだ何も植わっていない、ただの黒い大地。

けれど瞬の瞳は期待で輝いていた。


「……よし。今日から俺の畑が始まるんだ」

腰のポーチから取り出したのは、加工前の《ニコチ草》の種。

「ここから、俺のタバコライフを作るんだな」

独り言をつぶやきながら、丁寧に種を蒔いていく。


土をならし、水を注ぎ、陽の光を浴びせる。

《黒焔・クワ》は不思議な力を持っており、刃先で軽く地面を叩くだけで土の養分が活性化する。

土からはほのかに蒸気のようなものが立ち上がり、瞬は「すげぇ……」と息を呑んだ。


その横で、きいが日向ぼっこしながらあくびをしている。

「にゃぁ……ほんとに農民の鍬神になっちゃったにゃ」

「うるせぇ。俺は俺の道を行くんだ」

と、真剣に返す瞬。



一方そのころ。

優衣は街へと出かけていた。

目指すは家具屋。

「せっかくの新しい家だもん。ベッドとかタンスとか、ちゃんと揃えなきゃね」


冒険者ギルドの受付嬢に紹介してもらった店に足を運ぶと、そこは木の香り漂う大きな家具店だった。

「いらっしゃいませ。……おや? あなた、もしや《黒焔ワイバーン討伐の女傑》?」

「……はぁ!? そんな噂になってるの!?」

慌てて否定しようとするも、店の奥から職人たちが次々と顔を出す。

「本物だ! 本物だ!」

「俺の椅子を使ってくれ!」

「いや、うちのベッドだ!」


押し寄せる職人の熱気に気圧されながらも、優衣は結局、テーブルや椅子、ベッドなどをまとめて注文することになった。

「……まあ、瞬もきいもきっと喜んでくれるだろうし」

少し恥ずかしそうに笑う優衣だった。



夕方。

畑を仕上げた瞬と、家具の注文を済ませた優衣が庭で合流した。

「おかえり。いい畑ができたぞ」

「そっちも順調そうね。私は家具を頼んできたから、数日で届くって」


きいは尻尾を揺らしながら二人の間に割り込み、

「にゃー、なんだかほんとにここで暮らすって感じになってきたにゃ」


三人はまだ新しい木の香りが残る家を振り返り、ゆっくりと笑い合った。

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