19本目・夢のマイホーム
トリスタンの賑わいから少し離れた郊外。
人通りもまばらになり、草むらが風に揺れるその先に――ぽつんと一軒の古びた家が建っていた。
壁はところどころ剥がれ、屋根瓦は崩れ落ち、まるで今にも倒れそうな佇まい。
だが、その周囲には荒れ果ててはいるものの、広大な農地が広がっていた。
「ここが……例の家か」
瞬は顎に手を当て、じっと見つめる。
迎えてくれたのは、この土地の持ち主だという初老の男だった。
「ここはな、ワシの父が農家として使っていた土地なんだ。だが父が他界してからは手が回らなくてな……管理もできず、こうして買い取り手を探しておる」
男の目に、一瞬だけ寂しげな色が浮かんだ。
「広いな……」
瞬は荒れ果てた畑を眺め、胸が高鳴る。
雑草に覆われた大地が、まるで「使ってくれ」と訴えているように見えた。
「でも、家はボロボロだよ?」
優衣が呆れ気味に言う。
「屋根も穴だらけだし、雨漏りどころじゃないよね」
「にゃーん……ねずみの匂いもするにゃ」
きいは鼻をひくつかせている。
三人で顔を見合わせ、少しの沈黙が流れた。
「……どうする?」
優衣が問いかける。
瞬は迷いなく答えた。
「買おう」
「えぇ!?」
優衣ときいの声が重なる。
「俺は、ここでニコチ草を育てたい。荒れた土地を耕して、乾燥させて、タバコを作るんだ」
瞬の瞳は真剣そのものだった。
「……あんた、本当に農民の鍬神になる気だにゃ」
きいが苦笑する。
優衣はしばし考え――やがて柔らかく笑った。
「うん。瞬がやりたいなら、私も手伝うよ。だって……冒険者ギルドに所属してるけど、住む場所はやっぱり欲しいしね」
「じゃあ決まりだな!」
瞬は拳を握りしめた。
「ここを俺たちの拠点にする!」
夕陽が傾く荒れ地の上で、三人の声が力強く響いた。
――こうして、瞬・優衣・きいの新たな生活拠点が決まったのだった。




