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18本目・農家の刃

トリスタンのギルド酒場は、この日かつてないほどの熱気に包まれていた。

きっかけは――「伝説の鍬」の噂。


《黒焔・クワ》を手にした異世界人、瞬。

その名も「農民の鍬神」。


本来、異世界人というだけで嫌われ、冒険者としても平凡なステータスしか持たない瞬は、これまで陰口や冷たい視線を浴びてばかりだった。

だが、鍬の話が酒場に広まると――


「おい、鍬神! 本当に鍬で魔王を討つつもりか!?」

「いやいや、畑を耕す方が性に合ってるんだろ?」

「おい、鍬神! うちの畑も頼むぜ!」


冗談交じりに声を掛けてくる冒険者たちが次々と瞬の席を取り囲む。

最初は毛嫌いしていた連中も、今では笑いながら杯を突き合わせていた。


「まったく、お前ら手のひら返しすぎだろ」

瞬は苦笑しつつも、杯をあげて応じる。


「でもな……俺はタバコが吸えたら良いのさ」


そう言って、火属性下級魔法【プチ・ファイ】でニコチ草に火を灯す。

その姿に、冒険者たちの笑い声がどっと響いた。


「鍬神、かっけぇじゃねぇか!」

「農民のくせに伝説級だぞ!」

「いや、農民だから伝説なんだろ!」


酒場は大盛り上がり。

今日の飲み食いはすべて「瞬と優衣からのおごり」だということで、街中の冒険者や町人までもが押し寄せていた。

テーブルには肉の塊、テポトの揚げ物、大ジョッキに注がれるエール――酒場はお祭り騒ぎそのものだった。


その夜は、三つの話題で持ちきりだった。

ひとつは《黒焔ワイバーン討伐の女傑》と称される優衣の武勇伝。

もうひとつは《農民の鍬神》瞬の鍬伝説。

そして――《最強の猫》きいの可愛さ。


「いやいや、優衣ちゃんのワイバーン斬りが一番だろ!」

「鍬神だ! 鍬神の話をしろ!」

「にゃー! きいちゃんに乾杯だ!」


派閥はきれいに三つに割れ、夜中まで論争と笑いが続いた。


女性陣は「きぃ可愛い!」「優衣さんカッコよすぎ!」と盛り上がり、

酒飲みの冒険者たちは「鍬神最強!」と瞬を担ぎ上げる。


そして……


「農民の鍬神!」

「黒焔ワイバーン討伐の女傑!」

「猫!」


それぞれの掛け声が飛び交った瞬間――


「なんか一つだけ雑だにゃあああ!!!」

きいの鋭い突っ込みが、酒場に響き渡った。


その声でまた大笑いが起き、夜はますます深まっていくのだった。


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