17本目・鍬の名は
ガイモンの鍛冶工房。
赤々と燃える炉の熱気に包まれたその場所は、鉄と火と汗の匂いが立ち込める「職人の聖域」だった。
「さて……こいつが例の黒いクリスタルか」
ガイモンがごつい手でクリスタルを掲げると、工房内の光が吸い込まれるように黒い輝きを放つ。
「赤黒いワイバーンの核石だな。……しかも、ただのワイバーンじゃねえ。素材としては最高級、いや、伝説級だ」
優衣が横で首を傾げる。
「それで……私の武器を作れるの?」
「当然だ。お前さんほどのステータスなら、伝説クラスの武器を振るう資格がある」
ガイモンの目が職人の光でぎらつく。
「さぁ、始めるぞ!」
――炉に火が焚かれる。
黒いクリスタルが熱され、赤黒い光を帯びながら鉄と融合していく。
ガイモンのハンマーがリズムよく打ち鳴らされるたび、火花が流星のように飛び散った。
数時間後。
「できたぞ!」
ガイモンが掲げたのは、漆黒の刃に赤い焔の文様が走る一本のダガー。
「名は……《黒焔・フレイムファング》。伝説級のダガーだ」
「すごい……!」
優衣の瞳が輝き、試しにダガーを握ると、その刃先から黒い焔が一瞬走った。
「手にしっくりくる……これなら!」
きいがぽつりと呟く。
「にゃーん……魔王軍が出てきても瞬殺だにゃ」
その横で瞬は、工房の隅でガイエンと一緒にニコチ草の加工方法を学んでいた。
葉を乾燥させ、刻み、紙で巻く――。
「なるほど……これでタバコになるのか!」
思わず感動の声をあげる。
「おい兄ちゃん」
ガイモンがこちらを向く。
「素材が少し余った。何か作りたいものはあるか? 武器でも防具でも、望みを言え」
「え? 俺に?」
瞬は少し考えた後、にやりと笑った。
「……じゃあ、鍬を頼む」
「……鍬?」
工房が一瞬静まり返った。
「そう。タバコを育てるために必要だからな。武器はいらない」
真剣な顔で答える瞬。
「……お前、変わってんな」
ガイモンが苦笑しつつもハンマーを振り下ろす。
こうして数時間後――。
「完成だ! 伝説クラスの鍬、《黒焔・クワ》!!」
工房中に響き渡るガイモンの声。
「いや、名前!!」
瞬が即座に突っ込む。
「せめて“黒焔の鍬”とか“フレイムホー”とかにしろよ! “黒焔・クワ”って、ただの鍬じゃねーか!」
きいは床に転がって笑い転げる。
「ぷはっ! 伝説の鍬なんか見たことも聞いたこともないにゃ!」
「俺も初めてだ……」
ガイエンまで腹を抱えて笑い、受付嬢にまで伝説の鍬の話が伝わる始末。
こうして――
異世界初の伝説級農具《黒焔・クワ》が爆誕した瞬間だった。




