16本目・硬貨の価値は・破
露店街を満喫し、パンと珈琲もどきで小腹を満たした瞬は、上機嫌でギルドの扉を押し開けた。
「ただいまー。優衣、きい、どうだった?」
……が、次の瞬間。
視界に飛び込んできたのは――受付嬢が大事そうに抱えている、輝く白い袋。
そして、その周りでざわめき続ける冒険者たち。
「し、瞬。ちょうどよかった!」
優衣が振り返り、にこにことその袋を差し出す。
「ほら、これ、今日のクエストの報酬だって」
「お、おお……ありがとう。どれどれ……」
瞬が袋を開ける。
――次の瞬間、眩い光に思わず目を細めた。
「な、な、なぁぁああああ!?!?!?」
ギルド中に響き渡る絶叫。
白金貨――それも百枚が、ぎっしりと袋に詰まっていた。
「ひゃ、ひゃっ……百枚!? お、お前ら……なにやったんだよ!? 国盗りでもしたのか!? 魔王でも倒したのか!?!?」
瞬は完全に腰を抜かし、その場で尻もちをついた。
きいが呆れ顔で腕を組む。
「いや、ちょっとワイバーンを倒しただけにゃ」
「ちょっと!? ちょっとじゃねぇだろうが!!」
瞬の声が裏返る。
「でもさ、タバコ代にするならこれで一生困らないんじゃない?」
優衣が首を傾げながら笑う。
「いやいやいやいや!! これ国が動くレベルだぞ!? 俺たちが持ってちゃマズい! 強盗に狙われるどころか、貴族に取り込まれて、最悪国王に呼び出されるやつだ!!」
「えー、そうなの?」
優衣がのほほんと答える。
「そうにゃ? 瞬ってば小心者だにゃ」
きいは毛づくろいを始める。
「お前ら……俺だけ感覚が常識寄りなの!? なあ!?」
必死に周囲の冒険者に助けを求める瞬。
しかしギルド内は笑いとどよめきに包まれ、誰も助けてはくれなかった。
こうして――
異世界での冒険二日目、瞬は初めて「この嫁と猫についていけるだろうか」と本気で頭を抱えることになったのであった。




