1話 どこ?
前回の投稿からかなり空きましたが、一応1話投稿しました。
「…んご!慎吾!慎吾!」
そう俺をさする里穂の声でようやく目を覚ました。視界は朦朧としているが、俺を抱きかかえているのが里穂だということは声で分かった。
「…里穂?」
そう呟いたことで、里穂は緊張が切れたのか、深めの息を吐いた。そう思ったら、俺を力強く抱きしめてきた。
「もう、心配したんだから!」
「心配って…」
そこで目が覚める前のことを思い出した。病院での光景が頭に浮かび、再び少々憂鬱な気分になるも、一度意識が落ちていることもあってか頭が妙に落ち着いている。
「いや、心配かけたな。」
「ほんとだよ、結構心配したんだから!」
「ごめんて。…それよりここどこ?」
「私も分からない。本当にここどこ?」
再度周囲を見渡すと、結構暗めの霧掛かった森というのが一番に感じる感想だ。
「…ラノベだなぁ」
「ラノベ?」
「展開がラノベのテンプレのそれなんだよ」
「…私あんまりライトノベル見ないんだけど」
「俺も真のオタクほどラノベを見ているわけじゃない。ただ新ジャンルの開拓の一環で読んでた時期あったんだよ。」
「…私、ラノベ見てないんだけど?」
「異世界とかそういうのだよ。俺も読んでたのは中二病感が軽めな奴だったから読みやすかった。」
「読みにくいやつってどういうの?」
「ルビ…振り仮名が高頻度で振ってある」
「我が左手に宿りしダークマターみたいな?」
「…もうもはやルビ関係ないじゃん。…話し戻すけどさ、この状況どうする?」
「んー、どうしようもないんだよね~。」
「っていうか地理的に違和感がある」
「地理的?」
「日本って国土面積結構狭いんだわ」
「それは分かるけど…」
「こんな平坦なところ、なんで開拓されてないんだ?」
「…なんで?」
「知るか。俺が知らないだけかもしれないけどさ。」
「外国に拉致された?」
「なんでこんな森の中に?」
「…しらない」
とにかく状況が分からない。転生時に状況を教えてくれる女神や神なんかもいない。ましては俺は2次元の世界の話を3次元に持ち出すほどの厨二病を患っているわけではない。
「とりあえず、手持ちの道具を整理しよう」
「探索でもするの?」
「しないといけないだろ」
「了解。でもそこまで役に立つもの持ってないよ?」
「とりあえず一回出せ」
一応俺らは学校帰り。だが俺は私服をリュックにいれており、病院に行く前に公園のトイレで着替えているため俺は私服だ。動きやすい服装を好んで着る俺は森でも動くのには問題はない。しかし里穂はビジュアルと着心地の良さだけを優先した制服姿。スカートの丈は膝の上、半袖、おまけにローファーだ。どう見ても動ける恰好ではない。
「どうする?」
「…一緒に行く」
「行けんのか?」
「行くしかないでしょ。はぐれたら終わりじゃん。」
「…まあいいか。体操服とか運動靴とか持ってきてないのか?」
「持ってきてるけど…」
「じゃあ着替えろ」
「…変態」
「言うてる場合か。そっち向かないからとっとと着替えろ。」
「ハイハイ。別に乗ってくれてもいいじゃん…」
「TPO考えろ」
「スイマセンデシタ」
…まあこうして会話できてるだけ良いか。俺も病院の一件があるし人のこと言えないけどお互いに精神状況が落ち着いている時点でまあ何とかなるだろ。
それから数分後、俺らは荷物確認をしているのだが…
「えっと…私はハンカチにティッシュ、日焼け止めにリップクリーム財布。あとはスマホと教材かな。」
「俺はスマホにパソコン、体育服とかハサミとか絆創膏。あと財布とか水筒、教材だな。」
「「…」」
…使えるものがねぇ
確かにサバイバルをするために荷物用意してたわけじゃなかったから装備がほとんどない状況でこの装備は仕方ないことは百も承知だ。
だからとはいえ少々生きる分には厳しい気がするのは事実だ。
「よし、とにかく一旦探索に行くか。」
「…装備は?」
「言ってても仕方ないだろ、ないんだから。」
「ま、いいんだけどね。」
「とりあえず制鞄は置いて行こう。重いし動くのに邪魔だ。」
「そうだね~、愛着あったけど状況が状況だし仕方ないよねぇ。」
「んじゃ、行きますか。」
探索なんて初めてであまりうまくいく気がしないが、動かないことには何も始まらない。
とにもかくにも、とりあえず進むことが重要だということだ。
違和感を感じ始めたのは、出発して数分後のことだった。
「…里穂」
「うん、空気重くなってきたね。」
それだけではない。霧が濃くなり、周囲に物音がし始めた。
「…ファンタジー感溢れるねぇ」
「言うてる場合かって」
まあどちらにしろ警戒をすることに越したことはない。武器という武器はないが、とりあえず周囲に落ちている木の棒を拾う。本来武器と呼べるものと比較したらあってないようなものだが、武器無しよりは幾分かましだろう。
「ま、リュック縦にするしかな」
そこまで言いかけ、俺は地面に叩きつけられた。何の前触れもなく、いきなり背後から尋常ではないスピードで。