プロローグ
『先日、2名の焼死体が都内の公園で発見されました。』
「…朝っぱらから物騒なニュースだな」
朝、朝食の食パンを口にしながら流れてきたニュースに思わずそう呟く
ここ最近そういうのが多い。少なくともここ最近で10人くらい死んでいると思う。それも死体は全国各地で被害者も老若男女ばらばらだから相手の意図が分からない。まあおそらく無差別殺人なのだろうけが、そこは俺には関係ない。
そのニュースの詳細を見終わった後、俺はテレビを消して支度をする。これでも一応俺も高校生だから学校には通わないといけないから煩わしい。
しかし悪態をついたところで始まらない。俺は諦めて身なりを整え、自宅を後にする。
そうして今日も今日とて俺こと原野慎吾の一日が始まる。
教室に着くと、クラスには大体全体の3分の2ほど来ていた。しかし俺を一瞥すると、何もなかったかのように視線をもとに戻す。
俺はこのクラスのモブ的立ち位置にいるからそこらへんは当たり前…か。
友人もほとんどおらず、やることといえば読書一択。他人と関わることがあまり好きじゃない俺は、人間関係と言ったらこのくらいのほうがちょうどよかったりする。
俺はカバンに入っていた本を取り出し、読書を始める。
しかし、そんな俺にも話しかけてくるやつもいる。
「お、珍しい。あんたラノベとかあんまり見ないタイプなのに」
そう話しかけてくるのはボッチ仲間の鈴木里穂。こいつも読書が好きらしく、時折こうして俺に話しかけてきてはこうしては自分の趣味を人に押し付けてくる。
「お前がこの前一人で盛り上がっていたからな。一応別ジャンルにも手を伸ばしてみようかなと。」
俺が読んでいたのはライトノベルだ。普段こういう系はあまり読まないのだが、里穂に押し切られて買うことになった。
「どう?面白いでしょ。」
「厨二病っぽいセリフが結構多いな。ルビが多すぎる。」
「ルビ?」
「ルビ知らないのか?」
「逆になんで知ってるのさ」
「…もういいや」
これ以上はだるいだけと判断した俺は会話を無理やり切り、再度本に視線を落とした。しかしそうされると困るのは里穂である。
「ちょっと、話急に切らないでよ!」
「続けててもグダグダになるだけだからな」
「そんなこと言わずに付き合ってよ」
「なんで俺なんだよ。他の人に話しかけるとかしろよ。」
「できないって分かってて言ってるでしょ!」
里穂は元々俺みたいな陰キャだったが、「私は変わる」と言い出し高校デビューをした。フットワークも軽くなり、親しみやすかったりするが、それでも人間は短期間で本質は変わらないものだ。本当の陽キャの前では尻込みし、コミュ障全開で話しかけることは愚か、話しかけてもまともきょどりすぎて会話なんてできたものではなかった。
そんなわけで、雰囲気は戻さなかったが、小学生以来の友人である俺にすがっているというわけだ。
「せめて雰囲気だけは戻してほしいところではあるけどな」
俺がそう呟くと、里穂は鬼の形相でこちらを睨んでくる。
「…私が誰のためにこんなことしたと思ってるのよ」
「何か言ったか?」
「何も言ってません~」
里穂が何言ったのかは聞き取れなかったが、なぜか機嫌を損ねたらしく、一人でどこかに行ってしまった。
「…何がしたかったんだ?あいつ」
そう言葉を零し、俺は本に視線を落とす。
ショートホームルームが終わり、クラスの全員が一斉に出ていく中、俺は一人取り残されていた。
俺は皆から少し遅れ、教室を出る。すると、少し離れているとこらから女子が近寄ってきた。
「慎吾、一緒に帰らない?」
先ほどの不機嫌は何処へやら、女子の正体である里穂がそう話しかけてきた。
「いいけど…寄り道するぞ?今日。」
「いいよ。私も行く予定だったし。」
へぇ
覚えているとは思わなかった。
今日は俺らにとって大切な日。そのことを忘れていると思っていた。
「よく覚えていたな」
「さすがに忘れないよ。さ、早く行こう。」
そう言い、里穂は俺の手を引っ張りながら、ずかずかと前へ進むのだった。
行きついた先は病院だった。
俺も里穂も道中はお互いに一言もしゃべらずに、暗い雰囲気でここまで来た俺たちは、少し気まずさやどういう会話をすればいいのかわからない故、言葉を選んではやめるを繰り返してた。エントランスのカウンターへ直行し、受付の女性に話しかける。
「すいません、」
「はい、どういったご用件でしょうか。」
「207号室の原野美千代…母の面会に来ました。」
「承知しました。ごゆっくりどうぞ。」
女性にそう言われ、俺らは受付を後にした。横にいた里穂も俺に付き添い、ゆっくり、足音のみ響く廊下で、俺ら二人は道中と同様一言も発さずに病室に向かった。
ただ思うのは、なんとも不思議な気持ちであるということだ。小2で知り合い、そこから訳10年、一緒に過ごしてきた幼馴染が、だ。
今まで里穂は親父さんに連れて行ってもらっており、俺は一人でこの病院に通っていた。去年里穂は来なかったため、こうして一緒にくるのは初めてとなる。だからこそ、こうして垢ぬけた姿の里穂がこの病院にいることが新鮮に感じる。
そう思っていると、いつの間にか病室に着いていた。4つあるベッドのうち、3つは空席の状況だ。そのベッドの上に、一人の女性が寝ていた。
そこで寝ていたのは俺の実の母親である原野綾香だった。
俺らはそのベッドに寄り、付近に置いてあった椅子に腰を下ろした。
「おばさん、もう7年くらいだっけ?」
「…ああ」
交通事故に母さんが巻き込まれて今日で7年が経った。幸い他に被害者はいなかったが、俺をかばって現在はこうして寝たっきりになってしまっている
「あのさ」
母さんを眺めていると、横にいた里穂が口を開いた。
「どうした?」
「時々思うんだぁ。おばさんの声ってどんなのだったっけって。」
「…急に重い話するんだな」
「してもいいじゃん」
そう話したっきり、俺らは1時間ずっと母さんを眺めていた。
病院の用も済み、俺らは変えることになったのだが…
「おい」
「何?」
「離れろ」
何故か里穂は俺の腕をしっかりホールドしているのだ。
「いいじゃん、別に。」
「よくない」
「えぇ、照れちゃって」
「照れてねぇからとっとと離れろ」
そう言いながら俺の腕に里穂がしがみついてくる。
こういう幸せが一番心地いい。こういう幸せを永遠に感じていたいと思うのは俺の我がままなのだろうか。
そう、世界はそれを許してくれなかった。
突如、大きな爆発音が周囲に轟いた。音が鳴った方向を振り向くと、そこは先ほどまで俺らがいた方向だった。
嫌な予感がし、俺は無言で走る。
もしかして…もしかして
そんな考えが頭をよぎり、さらにペースを上げる。
走って走って、走りぬいた先は病院だ。しかし、そこはすでに炎が広がっていた。
「嘘…」
後ろで追いかけてきた里穂が、息を切らしながらそう言葉を零す。この現状を、俺は到底受け入れることはできなかった。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!こんな、こんなことが!」
自分が出した声だとは信じられないような声で叫ぶ。
そんな俺を、里穂は必死に拘束していた。
「しんちゃん、ダメ!いったん落ち着いて!」
中学まで里穂が呼んでいた俺の名を大きな声で叫ぶが、その声は俺には届かない。だってそうだろう?今までの生きていた意味が、今こうして燃えているのだから。
「ああああああああああああああああああ!!」
そう叫んでいると、足元に赤い魔法陣が浮かび上がってきた。もちろん俺をおさえつけていた里穂も一緒に。
いきなりのことで混乱しながら、俺は意識が途絶えた。