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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[序章 トウキョウ編 Welcome to Sinners Game]
7/55

[クダラミズハ]


「着いたよ。ここ、入っていって」


 マヤが、地下へと続く通路を案内し、先導していく。オレはその後を追い、階段を下っていった。


 タカイチ、そしてバジリスク・エネミーとの戦いが終わった後、オレたちは『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』に命を狙われている記憶喪失の――――『厄災の匣』の異名を持つ少女、百済ミズハに会うため、彼女が身を隠しているという場所へと足を運んでいた。


「このダンジョンにも時間の概念はあるから。夜になる前に辿りつけてよかった」


「そうだね。エネミーにも出会わなかったし、ラッキーだったよ。それに実はオレ、このダンジョンの"地下迷宮"に入るの初めてなんだよね。楽しみだけど、迷ったりしないか少し心配かも」


「ああ、それは安心して。この地下迷宮は本来、地上のエネミーから難を逃れるためにあるもので、上層区域は構造も単純だし迷うことはないと思う。むしろ地上より安全だよ。……さて、どこにいたかな」


 マヤは、とあるゲートの入り口で立ち止まった。

 そのゲートの上部には、"すいぞくかん"という文字が書かれている。


「ようこそ、リベル。ここが私たちの隠れ家、地下水族館だよ」



「わあ…………!」


 その施設の中に入ると、そこには圧巻の光景が広がっていた。仕切られたガラスの空間の内で、大小色とりどりの、様々な魚が泳ぎ回っている。こんなの、生まれて初めて見た。とても美しい……!


「おやまあ、目をキラキラさせちゃって。ユーシャ、これは水族館ってものさ。水槽の中の魚は食べちゃダメだぜ?」


「食べないよ!」


 一歩、一歩と先に進んでいくたびに目の前の景色が色鮮やかに変化していく。リアルタイムに移り変わる水槽内の魚たち、新たに現れる別の水槽。瞬きする間はなく、呼吸すらも忘れてしまいそうになる。

 

 ずんずんと先へ進んできてしまい、マヤとアカツキを置き去りにしてきてしまったことに気が付いたその時。



 

「こんにちは。すごいですよね、ここの水槽。私も初めて見たとき感動しました。こんなにすごいものがあるのか、って」


 足音と共に、そんな声が前方から聞こえたのでそちらを向くと、そこには一人の少女が立っていた。茶髪で背の低い、残る命の火(ライフメーター)が無色透明な女の子だ。


「ああ、分かるよ。海の底という、別世界で生きている命のきらめきを間近で感じられる。こんなものは、オレの世界にはなかった」


「私は海が大好きです。たくさんの生き物が暮らす命のゆりかご、広くて大きな大自然の存在。優しくて包容力がある、そんな感じがあるんです」


「そうだね。でも、海は危険なところでもある。昔、海の魔物討伐に出たときには嵐に遭って――――いや、今はそんなことどうでもいいな。それより君」


「はい?」


 少女は、穏やかな微笑みを浮かべてオレを見上げてくる。可愛らしく、朗らかで誠実な印象を受ける少女だ。マヤが守りたいと思うのも頷ける。


「君が、百済ミズハだね?」


「はい! 私、百済ミズハって言います。そういうあなたは勇者さんですね? マヤさんは一緒に帰ってきてますか?」


「ああ、もうすぐ来ると――」


 そこへ、マヤがやってきた。彼女の姿を見た途端、ミズハの表情はさらに一段明るく弾んだように見えた。


「……ミズハ。待たせてごめんね」


「マヤさん!! 無事でよかったです」


 ミズハはマヤの元へと駆け寄り、抱きついて顔を埋めた。彼女の頭を撫でつつ、穏やかな表情になったマヤはオレの方を見て言った。


「一旦、あっちで話そう。自己紹介タイムだよ」

 



  

 マヤと合流後、"レストラン"になっている場所の椅子に座り、改めて自己紹介をした。

 百済ミズハは自分の名前と、14歳であること以外の記憶が一切ないという。過去の記憶の一部が欠けているだけのオレよりずっと重症だ。


「『厄災の匣』。その名に、何か聞き覚えは?」


「全くないです。どうして私の命が狙われているのか、全然分からないんです。シナーズ・ゲームのルールは理解していますし、殺し合いをする怖い世界だということも分かってるんですけど……。あの人たちはどうしてあんなに必死に私を狙うのか、それが分かりません」


 ミズハの言葉に嘘はなさそうだ。そういった印象を受けた。ならば、ありえる可能性は。


「記憶を失う前に何かがあった、そう考えるのが妥当かな。けど、それを確かめる術は今はない。となれば『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』との和解は不可能だし、君たちはこのトウキョウダンジョンを出たほうがいい」


 クラン『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』は巨大な組織だ。このダンジョンにいてはいつかは居場所がバレるだろうし、オレだけの力でずっと彼女を守るというのも難しい。ならば、行方をくらませてしまうのが最適の方法だろう。


「うん、私もそう思う。そして、()()()()()リベルにお願いをしたんだ」


「というと?」


「『ナビ』出してよ、リベル。そこに、このトウキョウダンジョンのクリア条件が書いてるから」


「…………なび?」


「えっ」


 聞き慣れない単語が出てきた。なび、って何だ?


「あー、悪い悪い。『ナビ』はアタシが預かってた。ユーシャは使い方が分からないだろうし、使うこともないだろうと思ってたからな。ほら、コレだろ?」


 アカツキがテーブルの上に飛び乗って、取り出したモノは、薄い板状の端末だった。そういえば、アカツキがいつも背負っていたような気がする。


「そうそう、それ。ゲームの情報とかを見られる、ゲーム専用のスマホみたいなもの。ちょっと貸してね」


 マヤがその画面に触れると、驚いたことに板は光り輝いて文字を表示した。なにかの魔術なのだろうか? この世界には魔法はないはずだけど……。


「トウキョウダンジョン攻略のクリア条件、それはダンジョンの中心部である"トウキョウエキ"に到達すること。そこに到着すれば、私たちは別のダンジョンへ行ける」


 ナビに表示された文字を指差してマヤは言った。

 それなら、今すぐにでも向かったほうがいいんじゃないか?


「でも、それには問題があった。それは、トウキョウエキまで辿り着くのがとっても大変だってこと。地上のエネミーは、トウキョウエキに近付くにつれて凶暴になる。地下の迷宮を通って行こうにも、迷いやすい上に安全地帯だから他のプレイヤーだってたくさんいる。この意味、分かる?」


「そうか。『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』のプレイヤーと鉢合わせする可能性があるのか」


「そゆこと。だから地下迷宮を進むのは論外で、地上を進むことになるんだけど……」


「全部理解したよ。エネミーを追い払って進むために、オレの存在が必要なんだね?」


「その通り」


 頷くマヤ。

 目的が鮮明になったことで、オレも決意を固める。

 これから、オレは2人をトウキョウエキまで送り届ける。道中、襲ってくるエネミーを追い払い、安全に。そうして2人がこのダンジョンから脱出できたら、依頼は完了。よし、イメージができたぞ。


「出発はいつ?」


「できれば明日、早朝から。夜道は危険だし、それに今日はもう疲れちゃった。体力を回復させてからのほうがいいと思う」


 確かにそうだ。そう言われてみれば、マヤと出会い、タカイチと戦って、この水族館にやってきたのも1日の出来事だったか。怒涛の1日だったな。


「リベルさん、リベルさん! ここ、ボタンを押すと自動で美味しいご飯が出てくるんですよ! シーフードカレーが私のおすすめです! マヤさんも一緒に、3人で食べましょう!」


「あ、そうだね。プレイヤーは食事を摂る必要はないけど、精神衛生上食事は大切だし」


「おい、アタシを忘れるなよ! サシミはあるか、サシミ!」


 ミズハ、マヤ、アカツキがレストランのキッチンのほうへと走っていく。そういうオレも、4日ぶりの食事だ。しかも、毎日エネミーの肉ばかり食べてたから、まともな食事は久しぶりだな。楽しみだ。

[シナーズ・ゲーム ゲームニュース]


強欲の帝国(グリード・エンパイア)』︰トウキョウダンジョンを拠点とする、シナーズ・ゲーム最大級の勢力を誇るクラン。プレイヤーがゲーム中で最初に訪れるトウキョウダンジョンに根城を構えているため構成員が集まりやすく、リーダーであるグリィダの異能力(デュナミス)支配(ドミネイション)』でエネミーを操り手駒にすることもできるため、その戦力は他とは一線を画す。

 リーダーであるグリィダは、その名前と異能力(デュナミス)は知られているものの、一般プレイヤーにとってその素性は一切不明。『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の幹部などしかその顔を知るものはいないという。

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