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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[序章 トウキョウ編 Welcome to Sinners Game]
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[幕間 帝国の幹部たち]


 トウキョウダンジョン、ミナトエリア。

 エネミーがあまり出現しておらず、無傷で残っている建物が多いこのエリアにそびえ立つ超高層ビルの最上階にある一室に、二人の男女が集まっていた。



「『厄災の匣』の処分はまだ終わらないのかしら、勅使河原(テシガワラ)? 部下の一人が任務に失敗したと聞いているわ。この役目はあなたには荷が重かったのかしら」


 黒のスーツを身に纏い、艶っぽく足を組んだ女性が、まるで挑発するかのように言葉を発した。大人っぽい雰囲気が特徴的な彼女の名は、山東(サントウ)キョウカ。シナーズ・ゲーム随一のクラン『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の一員である。


「みくびるなよ、山東。私はまだ情報収集の段階にしか至ってはいない。中臣は必要最低限の仕事は果たした。君に文句を付けられる謂れはない」


 一方、キョウカと会話をしていた男性はかけていた眼鏡の位置を直し、不機嫌そうに言葉を吐き捨てた。着ているワイシャツから透けて薄っすらとその鍛えられた筋肉が確認でき、オールバックに整えられた髪型と傷だらけの顔、そこにかけられた厳つい眼鏡といった風貌からカタギの人間には見えないその男の名は勅使河原(テシガワラ)ユキツグ。彼もまた、『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の一員だ。


 キョウカとユキツグ、この二人は『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の”女王(クイーン)”の一角を担っている。チェスの駒で階級が定められている『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』において4つしかない”女王(クイーン)”の座は、クランの創設者でありリーダーでもある”(キング)”を除けばクランの最高幹部であり、クランのメンバーが到達できる最高の地位である。そのため、彼らはクランのメンバーたちにとっての憧れであり、そしてその実力は折り紙つきである存在なのだ。


「実力主義者であるあなたにしては、随分と甘い考えじゃなくって? それともお気に入りの部下は甘やかすのかしら。”鬼将軍”の異名が泣いているわ」


「そういう君こそ、部下の教育が行き届いていないのではないか? ダンジョンを攻略していない、ダンジョンタイトルを有していない初心者プレイヤーを無駄に殺す問題児が君の部下にいると聞いたぞ。キャッチ&リリースの意義すら分からない愚行、しかも『無辜の守護団』に目を付けられる可能性すらある蛮行だ。”鉄の参謀”の異名は今の君には重いのではないか?」


「『無辜の守護団』……無所属のプレイヤーを保護する、あのヒーロー気取りのクラン? あんなもの、歯向かうというのなら潰してしまえばいいのに」


「無駄な対立こそ避けるべき事案だろうが」


「何を言っているのかしら。私たちのクランの目的を忘れたの? 敵になるのなら、どんなものでも潰してしまえばいいのよ!」


 言い争いを続けるキョウカとユキツグだったが、そこへ電話がかかってきた。ユキツグの携帯であり、その電話に出た彼は通話相手の声を聞くやいなやその表情をほころばせた。


「む。……ああ! もしもし()()様! はい、はいキョウカもおります。はい、ではそのように」


 ユキツグは電話をスピーカー状態にし、キョウカにも通話相手の声が聞こえるようにする。通話相手は、明るくはきはきと喋る男の声だった。


「やあキョウカ、元気してたか? 俺だ、”グリィダ”だ!」


「……”(キング)”!」


 通話相手の男は、『強欲の帝国(グリード・エンパイア)』の創設者であり、クランのリーダーである”(キング)”、そして『強欲罪王』という異名を持つ男、グリィダだった。もちろん、その名は偽名でありその本名は誰も知らない。


「早速本題に入るんだが、ユキツグ! 『払暁の勇者』が見つかったというのは本当か!?」


「……払暁?」


「はい。私の部下である中臣タカイチが、『勇者にやられた』と報告を。おそらく、罪王様がよくおっしゃっていた『払暁の勇者』と戦闘になり、敗北したものと考えられます。彼は仲間によって回収されましたが、かなりこっぴどくやられたようでした。彼ほどの実力者を赤子の手をひねるように倒せるのは相当な実力者に間違いありません」


「ちょっと待ってちょうだい! その『勇者』というのは何者なの? 私の耳には入っていないわ」


 話についていけていないキョウカは、ユキツグにまくし立てて尋ねる。だが、その質問にはグリィダが答えた。


「『払暁の勇者』は、我々とは異なる国・時代・世界からゲームに参加しているプレイヤー――『イレギュラーズ』の中でもさらに特殊な、”異世界からやってきた、魔王を倒した勇者”だよ。ファンタジー作品の勇者さながらの姿と性格、そして並外れた強さを持っている。ぜひとも仲間に引き入れたいものだ!」


「……そんな存在がいたなんて。私だけ知らなかったの?」


「いや、私も罪王様がよく口にされていたのを聞いていただけで見たことはない。罪王様はお会いしたことが?」


「ああ、昔に一度ね。あれからずっと行方不明だったが、まだトウキョウにいたとは! いやあ、灯台下暗しとはこのことかな。残念だよ、俺は今オオサカにいるからなぁ。すぐに会えないなんて口惜しい!」


 ははは、とグリィダは笑う。そんな彼に、ユキツグはさらなる報告を続けた。


「どうやら『払暁の勇者』は『厄災の匣』と接触したようです。これは、私たちにとって危険な状況と言えますが――」


「『厄災の匣』――ああ、『天啓の信徒会』が生み出した()()()()か。それは厄介だな。二つの強大な戦力が揃ってしまうのは確かに危険だ」


 ふむ、という声を漏らすグリィダ。そんな彼に、キョウカはとある提案をした。


「それならば、”(キング)”。この私が、『勇者』も『匣』も一網打尽にしてみせましょうか?」


「!」


「おお、それは本当かいキョウカ!」


「ええ。……そもそも、その『勇者』が本当に勇者であるのなら、私たちの仲間になどまずならないでしょう。ですが、私には捕らえてみせる策があります。無力化さえできれば、あなた様の異能力(デュナミス)支配(ドミネイター)』が使えるでしょう?」

 

「ああ、そうだねキョウカ。確かに、彼は俺には賛同しないだろうな。なにせ、俺たちの目的は――『ゲーム・現実世界両方の”世界征服”』なのだから」


 グリィダのその言葉に、キョウカは笑みを浮かべ、ユキツグは静かに頷く。


「俺たちは強欲だ。その欲を満たすためになら、善にでも悪にでもなろう。そんな考えの俺たちには『払暁の勇者』は従わないだろうな。うん、それなら俺の能力を使うべき時がきたみたいだな――って、うん?」


「お父様、お父様。私、そろそろ眠たくなってきました。けれど、今夜はご本を読んでくださる約束だったでしょう? ご本を読んでくださるまでは、私眠れません」


 電話の向こうから、幼い少女の声が聞こえてきた。その少女と会話しているらしいグリィダは焦った様子で声をかける。


「いやあ、すまないカルラ! と、いうワケでそれじゃあこの辺で通話は切るぞ、ユキツグ、キョウカ! 後は任せたからな!」


 そう言って、グリィダは電話を切った。

 通話が終了するとすぐに、ユキツグはキョウカへと視線を向ける。訝りの感情がこもった、不安そうな目だった。


「……できるのか?」


「馬鹿にしているのかしら。できると思ったから、私は言ったのよ。それとも何? まさか役目を取られた嫉妬かしら? それならあなたは『エンヴィー・ユニオン』にでも移るべきね」


「いや、そういう意図ではないのだが……」


「あ、そう。それなら私は早速準備に移らせてもらうわ。それじゃあね」


 そう言葉を残し、キョウカはその部屋を後にした。

 一人残されたユキツグは、ぽつりと独り言を漏らす。


「何を焦っている、山東?」

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『ダンジョン』︰シナーズ・ゲームのゲームフィールドを構成する、合計で50の異空間。現実の日本の各都道府県をモデルにして作られているが、どのダンジョンでも何らかの異常が発生しており、実際の街とは似ても似つかない。それぞれのダンジョンごとにクリア条件が設定されており、それを満たすことでダンジョンを攻略した証『ダンジョンタイトル』を得ることができる。このダンジョンタイトルを50集めたプレイヤーは生き返ることができる、とされている。

 魔術によって空間情報を知覚できるリベルによれば、ダンジョン含むゲームフィールドの空間は現実世界の一部であり、異世界や冥界といった別世界にあるものではないらしい。ただし、現世とは隔絶しており、その認識をすることはできない。

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