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シナー・ヒーロー 〜異世界人の異能力バトルゲーム挑戦記〜  作者: 芒種雨
[1部3章 フクシマ編 勇者の証明]
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[獣災地帯]


 モニターが立ち並び、電子機器類が並べられた小綺麗な広い部屋。そんな空間で、演説のように声を響かせる男が1人。

 

「諸君! この度は我々『フクシマ防衛隊』に入隊してくれたことをありがたく思う! "災獣"の脅威から市民を守る責務を果たしてくれるよう、諸君らの活躍を祈っている!!」


「……は、はい」


 オレたちの前に仁王立ちしているその大柄なNPCの男性が、大きな声を張り上げる。オレたちは気圧され、頷くことしかできなかった。……事情を全く呑み込めていないにも関わらず。

 


 話を数時間に戻そう。 

 マヤ、ミズハ、アカツキ、そしてこのオレは、このフクシマダンジョンへと到着した。『獣災地帯』の名を冠する、難易度Bのダンジョンだ。

 これまでとは一線を画す、Bランクの難易度ダンジョン。さぞかし危険なところなのだろう、と戦々恐々としていたのだが、その予想に反して街並みは綺麗で、NPCであろう市民たちは穏やかな生活を送っていた。マヤたちが生きていた世界は、こんな様子なのだろうか。トウキョウダンジョンは荒廃していたし、チバもミトも封鎖された空間のダンジョンだったから、こんな景色が見られるのは新鮮だった。


 そんな感情を抱きつつ、しみじみと街を歩いていたそのとき、このガタイのいい男性が声をかけてきた。『プレイヤーであるのなら、来てほしい』と言われ、ダンジョンの攻略のためにも付いてきてみたのだが――。



 

「"災獣"! それは、闊歩するだけで道路は陥没し、咆哮のみで電波を乱し、身動きするのみでビルをなぎ倒す! そんな、怪獣、魔獣、モンスター、クリーチャー、などと形容される巨大危険生物のことである! 我々は、その災獣たちを相手取り、そして勝利しなければならない!!!」


「……暑苦しいですねこのNPC(ヒト)。耳がキンキンします」


「まあそう言わないでミズハ。……うん、なんとなくこのダンジョンのことが分かってきたかも。フクシマダンジョンのクリア条件、それは『エネミーの1体撃破』だった。たぶん、"災獣"とやらはこのフクシマで出現するエネミーのことを指してるんだろうね」


 マヤの言葉で、オレも事情を少し理解できた気がする。

 このダンジョンでは、出現するエネミー――"災獣"と戦うNPCたちの組織があり、それがこの男性が属する組織なのだろう。そこにオレたちも加わった。もしかすると、このNPCたちはオレたちがエネミーを倒すためのサポートをする目的で存在しているのかもしれない。


「君たちプレイヤー諸君には、"災獣"の出現情報とデータを共有したい。諸君のナビにアプリケーションを入れておいたので、後で確認を――――おや?」


 男性NPCの声を遮るように、けたたましい警報音が鳴り響いた。各モニターが赤く染まり、点滅している。そんなモニターに顔を向けていた女性NPCはくるりと振り向き、焦ったような表情をこちらに向けてきた。


「隊長! アイズエリアにて、"人魂災獣"フォスフォラスンを確認! 出現位置にて、フォスフォラスンが吐き出した炎により大規模な火災が発生しています!」


「分かった! ……諸君、早速だが災獣のお出ましだ。話の続きは道中にしよう。現場に急行する、付いてきたまえ!」


 隊長と呼ばれた男性NPCの後に付いていくと、広い車庫のような空間に、武装した乗り物が置いてあった。ヘリコプター、というのだそうが、実際にマヤたちの世界に存在するモノとは形状がかなり異なっているそうだ。防衛軍のメカっぽい、とマヤは目を輝かせていた。


「乗り込めッ!」


 プロペラというものを回し、ヘリコプターが飛び立つ。天井にぶつかってしまわないか心配だったが、その天井はパカリと開き、そのまま機体は市街地へと飛び出していった。


 


「……流れのまま来ちゃったけど。一応、確認だよ。私たちはミズハに呪いをかけた『天啓の信徒会』のプレイヤー――四宮トリデを倒すためにここに来た。それは分かってるよね?」


 空を移動中、マヤはオレたちがここに来た目的を再確認する。そのとおり、オレたちは四宮トリデを倒してミズハの呪いを解くため、ここまでダンジョンを踏破してきた。他プレイヤーを殺害しなければ、ミズハはあと約10日でゲームオーバー――完全な死を迎えることになってしまう。それだけは阻止しなければならない。


「はい。……っ、んっ、――ふぅ」


「? 大丈夫、ミズハ?」


 話の最中、急にミズハが頭を振って苦しそうな表情を浮かべていた。それに気付いたオレが声をかけると、ミズハは頭をかきながら答えた。


「あ、えっと。……なんか、変なんですよ。このダンジョンに来てから、ちょっと頭痛と目眩、あと不快感が取れなくて。といっても熱が出たり身体がだるいってことはないので、トリデって人の呪いのせいではないと思いますが」


 えへへ、とミズハは笑っているが、それは少し心配だ。万が一のこともあるし、さっさとこのダンジョンでのやるべきことは早めに片付けてしまいたい。


「無理はしないでね。……ともかく、私たちにとっては、四宮トリデを見つけるのが第一目標。でも、それはそれとしてこのダンジョンも攻略しないとだし、まずは出現したエネミーと交戦しよう。それでいい?」


 マヤの言葉にオレは頷く。

 そしてちょうどそのとき、対象であるエネミーが出現した地点へと到着した。


「諸君、話は終わったか? ……見えるだろう、あれが"人魂災獣"フォスフォラスンだ!」


 ヘリコプターの窓から、目下に広がる街並みに火の手があがっているのが見える。そしてその中心部には、ビルを上回る巨体を誇る、炎でできたヘビのような姿の怪物が暴れていた。おそらくあれが、フォスフォラスンというエネミーだろう。そして、そのエネミーと交戦しているのであろう、複数の人影も視認できた。


「ナビ、ナビ……っと。おお、カメラで撮影するだけで、エネミーの情報が分かるんだ、すごい! えーとなになに、『"人魂災獣"フォスフォラスン……。無数の"ヒトダマ・エネミー"が集合して発生した姿。過密状態になっている肉体中心部から吐き出される熱線は、鋼鉄すら容易に溶かす』……か。てことはアレ、複数のエネミーの集合体なんだ」


「ああ、そうだ。早速、ナビに追加した機能を使ってくれたようだな。……ヤツは炎そのものだ。普通の攻撃手段では倒せな――――って、おい!? 君、何をして――」


「マヤ、ミズハ! オレ、ちょっと先に戦ってくる!」

 

「あ、オッケー。私たちも後から向かうから」

 

 手を振って送り出してくれるマヤとミズハを尻目に、オレはヘリの扉を開いて飛び降りる。目指すはあのエネミーのところへ!


「ちょ、おいユーシャ!? アタシは置いてけよ、ちょ、待――――ギニャァァァッ!?!?」


 ああ、そういえばアカツキが頭に乗ったままだったな。悲鳴をあげながらオレにしがみつくアカツキ。髪の毛が引っ張られてちょっと痛い。




「よっ、と」


 燃え盛る市街地の中心部に着地したオレは、絶叫しながら暴れ回るエネミーと対面する。バジリスク・エネミーやスプリガンもそれなりに大きかったが、目の前のエネミーはさらにデカいな。


「おいあんた、どけっ!」


 そんなオレを突き飛ばし、エネミーへと一目散に向かってく男が一人。彼は近付ける限界までエネミーに接近すると、手に持ったバケツを勢いよく投げつけた。


「……っしゃぁ! これでこのダンジョンはクリアだ! あとはこんな危険地帯からはトンズラするだけ……!」


 歓喜の声をあげたその男は、今度は必死にエネミーから逃げていく。

 ……そうだ。確かさっきマヤは、あのエネミーは"ヒトダマ・エネミー"の集合体だと言っていた。ヒトダマ・エネミーというと、トウキョウの迷宮で出現した、小さな火の玉のようなエネミーだった。バケツいっぱいの水でも消せるほどの。

 ということはつまり、彼はあのバケツで災獣フォスフォラスンを構成するヒトダマの1体を消火し、撃破した。それで『エネミーを1体撃破』という条件は満たされ、ダンジョンはクリア扱いとなる。そういうことだろう。


「とはいえ――」


 暴れるフォスフォラスンは、周囲に火炎弾を放ち火災を悪化させる。逃げ遅れた市民NPCたちは炎に逃げ惑い、右往左往している。そんな中、プレイヤーたちは我先にとフォスフォラスンを構成するヒトダマ・エネミーの1体だけを消火し、それが済めば逃走。消火器や水を巡り、プレイヤーどうしの争いすら発生している始末だ。


「NPCは実際に生きてる存在じゃない。だからNPCを守る必要はなく、ダンジョン攻略を優先するのが正しい、被害が広がろうとどうでもいい、と言われたらそうなんだけど。でも、あまり見ていて心地がよい光景じゃないね。……少し頑張ってみようか」


 息を吸い込んで魔力を回し、目の前にそびえ立つ炎の怪物に対する戦意を固める。やはりオレは、こういう戦いのほうがやる気が出るな。

 そうして1歩踏み出そうとした矢先、さっき逃げ出した男が叫び声をあげながら、オレの横を走り去っていった。

 おや、この場から離脱しようとしていたのではなかったのか、と思ったそのとき――。



「『化け狐』だ! 全てを凍てつかせる、『化け狐』が出――――ぎゃぁぁぁぁっっ!?」


 刃物を突き立てられた痛みのような冷気が、オレの頬をなぞった。かと思えば次の瞬間、あの男性は氷に包まれて動きを止めた。一瞬で、冷凍されてしまったのだ。



 しゃらん。しゃらん。

 その『化け狐』は、炎の地獄へ氷の華を咲かせにやってきた。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『フクシマダンジョン』︰"獣災地帯"の異名を持つ、現実の福島県とよく似た街が広がるダンジョン。その実態は、"災獣"と呼ばれる特殊なエネミーが出没する危険な地域であり、プレイヤーはこのダンジョンに存在する『フクシマ防衛隊』に所属してこの"災獣"を退治しなければならない。とはいえ、クリア条件は『エネミーの1体撃破』であるため、運良く弱いエネミーと遭遇できれば攻略は難しくない。難易度はランクBとなっている。

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