[幕間・帝国の動向]
お久しぶりの投稿です。
最近忙しく、全然執筆ができていませんでした。構想を練ることくらいしかできず、歯がゆい思いです。
しばし投稿が遅れます。すみませんが、気長にお待ちください。
リベルたちがミトダンジョンにて試合に興じているのと、ほぼ同時刻。
トウキョウダンジョンのダイバエリアにて。
「……っし。雑魚どもが、俺に敵うと思ったかよ!」
ゲームオーバーとなり消滅していくプレイヤーの残骸を見下ろしながら、『強欲の帝国』に所属する金髪の男――中臣タカイチは勝利の声を高らかに言い放った。だが、そんな彼の背後に忍び寄る影が1つ。
「おのれ、『強欲の帝国』……! この下等人どもがァァァッ!」
「なにっ、後ろに――!?」
タカイチが気付くも既に遅し。その男が手にしていた斧のような武器をを振り下ろさんとしたそのとき――。
「……『麻酔』。は〜い、残念。そのまた後ろに、この私がいたんスよね、これが」
「かはっ――」
斧を持つ男は気を失い、崩れ落ちるようにして倒れた。
その男の気を失わせたのは、青い髪色の女性だった。目を開いているのか閉じているのか分からないほどの細い眼で、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。
「……チッ、赤坂かよ。余計な手出ししやがって」
「むむむ。タカくん、その言い草はなくないッスか? せっかく助けてあげたのに。きーちゃん泣いちゃうよ?」
「うるせえ! てか、タカくん呼びはやめろつってんだろうが!」
ぷんぷんと怒るタカイチを見て笑っているその青髪の女性の名は、赤坂キイロ。彼女もまた『強欲の帝国』のプレイヤーであり、そして幹部である"女王"の一角を担っている勅使河原ユキツグの、その直属の部下である。
さらに言えば、疑似エネミー化して暴走した山東キョウカを沈静化する作戦に貢献した手柄のため、勅使河原ユキツグの部下に加わった中臣タカイチの、その上司でもある。
そんな彼女に助けられたタカイチは、意識を無くして倒れている敵プレイヤーを睨みつけた。
「にしてもこの野郎、背後から不意討ちしようとしやがってクソが。眠ってやがる今のうちにぶっ殺してやろうか?」
「もー。駄目ッスよタカくん。なんのために私が生け捕りにしたと思ってるんスか? 『天啓の信徒会』のプレイヤーであるこの人を、拷も――もとい尋問して情報を吐かせるために決まってるでしょ?」
にこやかな表情のまま、言葉を発する赤坂キイロ。こういう台詞を表情を変えずに言うところが、彼女の怖いところなんだよなぁ、という感想をタカイチは抱く。
「……終わったか、君たち。ご苦労」
そんなタカイチとキイロの元へ歩いてきたのは、2人の上司であり"女王"の一人であるプレイヤー、勅使河原ユキツグ。オールバックの髪型と厳つい眼鏡、傷だらけの顔という相変わらずのおっかない姿で、仏頂面のまま2人にねぎらいの言葉をかける。
「これで、『払暁の勇者』との激突および四宮トリデによって引き起こされた一連の問題は全て解決されたッスね。トウキョウダンジョンに潜り込んだ『天啓の信徒会』のプレイヤーの掃討もこれで終わりですし」
「ああ。後は逃走した『血染めの狂戦士』こと間宮トモキについてだが……。どうやら『天啓の信徒会』に手引きされてフクシマダンジョンへ向かったようだな。であれば一旦無視でよかろう。これで任務は完了だ。……2日か。やや時間がかかったな」
「……はぁ〜、やりきったぜ。疲れた……」
この2日間というもの、タカイチはほぼ休息を取っていなかった。ユキツグが休みなしに次から次へと敵地へ赴くため、そんな暇がなかったのだ。いつでも休んで構わない、とは言われていたものの、赤坂キイロすらもずっとユキツグに付いていくためにタカイチは1人だけ休んではいられなかった。
せっかくユキツグという幹部の部下になれたのだ。であれば、自身の実力をアピールして認められなければならない。そして出世し、いずれは空いた"女王"の席へ。そして、ダンジョンタイトルを50集めて生き返ること。それこそが中臣タカイチの目標である。
「やっぱり、キョウカさんがいないときついッスね。計画立案と実行を同時進行でやるのは骨が折れるッスよ」
「仕方ないことだ。彼女は今頃オオサカだ。生きて帰って来られることを願おう」
勇者リベルおよび『厄災の匣』の捕縛失敗、そして疑似エネミー化して暴走した責任を問われ、山東キョウカは"女王"の座から降格、そしてオオサカダンジョンへの派遣任務という名の左遷となった。オオサカダンジョンは『神曲魔界』という異名を持つ、最高難易度であるAランクのダンジョンである。そんな場所に単身で派遣されるというのは、ほぼ死を意味していた。
「我らが"王"は寛大な心で、もっと軽い処罰を与える予定だった。だが、彼女自身がそれを許さず自らオオサカ行きを所望したのだから、仕方ない。けれども彼女は優秀だ。無事に帰ってくることを信じているとも」
淡々と言葉を述べたユキツグは、ナビを開いた。そして、届いていたメッセージを閲覧する。
「……ふむ。新しい任務だ」
「えっ!? ちょ、今終わったばっかじゃないですか!? やっと休めると思ったのに……。クソッ、すみません、俺やっぱ休みます。72時間連続稼働は、流石に――」
「駄目だタカイチ。今回は"王"直々の指令だ。休むことは許されない」
「そ、そんな――!?」
休めるときに休んでおけばよかった、と後悔するタカイチ。そんな彼にはお構いなしに、ユキツグはメッセージの内容を共有する。
「……先日から、一部のプレイヤーに『キャンペーンクエスト』の招待状が送られているのは諸君も知っているだろう。センダイダンジョンで行われる、『極限の生存競争へようこそ』という題のものだ」
キャンペーンクエスト。
それは不定期に開催される、期間限定のダンジョンの難易度低下キャンペーンである。通常のダンジョンのときとは異なるクリア条件が設定され、遥かに攻略がしやすくなる。
ただし参加者は招待状が送られた一部のプレイヤー、もしくはキャンペーンクエストに参加したプレイヤーから招待状を共有してもらえたプレイヤーに限られる。そのため、クランに加入していたほうがキャンペーンクエストには参加しやすくなっているのだ。
だが、そんなキャンペーンクエストで異常な事態が発生していた。
「私たち『強欲の帝国』からも、数人のプレイヤーが派遣された。難易度が低下しているとはいえ、センダイは腐ってもAランクダンジョン。選りすぐりのメンバーを派遣したのだが、しかしセンダイダンジョンに足を踏み入れてわずか数時間後、その消息が途絶えた」
「……まあ、ほぼ生きてはいないッスよね……」
「ああ。そんな彼らの最後の報告に、『エンヴィー・ユニオン』そして『天啓の信徒会』が怪しい動きをしているとの連絡があった。センダイは『エンヴィー・ユニオン』の拠点。キャンペーンクエストを利用して、何かの企みを進行している可能性がある」
「『エンヴィー・ユニオン』、そんでもってまた『天啓の信徒会』かよ! あの差別主義クソ宗教野郎ども、また邪魔してくんのかよ!」
「私たちは、これからセンダイダンジョンへ向かう。追加のメンバーを選出し、万全な状態で出立する。各自、準備を整えておけ。資料はすぐに配布しておく。では、1時間後」
そう言い残してユキツグはすたすたと歩き去っていった。残されたキイロは、疲労困憊の様子のタカイチを真はする。
「タカくん、大丈夫ッスか? 疲れてるなら、私から勅使河原さんに休めるよう頼み込みますけど」
「……いや。必要ねぇ。センダイは俺にとっちゃ初めてのダンジョン。移動中休めるだろ。それに――センダイは東北だろ? てことは、あの勇者どもに会えるかもしれねぇ」
ニヤリ、と口の端を釣り上げるタカイチ。
「どうスかねぇ。キャンペーン中は招待状持ってないとダンジョンに入れないッスよ? その勇者さんには会えない可能性のほうが高いと思いますけど」
「ま、まあいいだろ! ……今度会えたら、そのときは必ずリベンジしてやる。リベル・ルドベキア、岸灘マヤ。見てろよ……!」
リベルたちへの闘志を燃え上がらせながら、タカイチはセンダイダンジョンへ向かうことを決めた。再会の時は近いのかもしれない。
[シナーズ・ゲーム TIPS]
『キャンペーンクエスト』:不定期に特定のダンジョンで開催される、期間限定の特殊な催し。そのダンジョンの攻略難度が下がり、クリアがしやすくなる。具体的には、ダンジョンの性質やクリア条件の変化、エネミーの弱体化など。ただし、プレイヤーが集中的に集まるため、プレイヤーどうしの戦闘の危険性は高まる。また、『キャンペーンクエスト』中はそのダンジョンに一般のプレイヤーは入れなくなり、"招待状"を受け取ったプレイヤー、もしくは"招待状"を受け取った者から共有されたプレイヤーしか、『キャンペーンクエスト』に参加することはできない。




