[争乱の予兆]
クラン『白い狼』との試合が終わった後、ミトダンジョンの入口にて。オレはナビを操作し、試合に勝利して獲得したポイントの一部をシータへと転送した。
「……ふむ。賞金ポイントの半分、確かに受け取った。これでワレと貴様との契約も終了じゃ」
オレは試合に勝利した景品として獲得したポイントの半分をシータに渡した。そういう約束で彼女には協力してもらったからだ。
「貴様ら、もう行くのか? 今日こそは温泉に入れそうなものだが」
「温泉は惜しいけど、私たちは先を急がなきゃいけないから。……あと、チョウノ。あなたは本当に、サミダレと一緒にここに残ってくれるの?」
試合に出場できず、まだダンジョンをクリアできていないサミダレ。そんな彼のために、チョウノはミトダンジョンに残ってくれると言い出した。
「彼を1人にさせるのは可哀想だ。ここは、試合で役に立てなかった僕が彼と行動を共にするべきだろう。君たちは先を急ぐといい。……ああ、でも。連絡手段は欲しいな」
チョウノはナビを取り出した。そして、その画面をオレに見せる。
「僕を、君たちのクランに入れてくれないだろうか。……本当は、推しの活躍は遠くから見守りたい派だったのだけど。近くにいるのも楽しそうだと、欲張りにもそう思ってしまってね」
「ああ、分かったよ。チョウノ、これからよろしく」
アカツキに手伝ってもらいながらチョウノのクラン加入の手続きを終えたオレたちは、次のダンジョンへと向かうために新幹線ホームへと向かう。チョウノとシータに見送られながら、このミトダンジョンを後にした。
この先のダンジョンに、クラン『天啓の信徒会』のプレイヤー――四宮トリデがいる。ミズハの命の手綱を握っている男であり、オレたちの第一目標だ。ミズハにかけられた呪いを彼に解かせなくてはならない。
◆
「……さて」
リベルたちを見送り、チョウノとも別れたシータ。彼女はベンチに腰掛け、ナビを手に取る。
「少し、行き過ぎた真似であっただろうか。不在着信がこんなにもきておる」
「…………ホントだよ。困るんだよね、あーいうマネされると」
いつの間にか、シータの目の前には2つの影が立っていた。その両者ともが、人間とは思えない異形の姿をしていたのだが。しかし、胸には残る命の火が灯されているため、彼らがプレイヤーだということが分かる。
「……"バビロン"、"ドレーク"。すまなかった。『欺変』も使わずに試合に参加したのはよくなかったな」
「いや、その点はむしろありがたかった。衆目の下に晒されたヌシの姿は、『欺変』無しの姿。それはまだ良い。問題はヌシの名前と異能力が露見したことだ。それは、よくない。よくないのだ、と、このドレークは警告する」
竜の仮面と鎧のような物を身に着けた、身長が3メートルはあろうかという巨体の怪人が、シータに顔を近付けて言った。
「ヌシは、このダンジョンでの情報収集を命令されていたはず。"例の依頼"にて敵となるであろうプレイヤーのデータ収集こそが使命であったはずだろう?」
「どうせ、試合見てたら闘いたくなっちゃったんでしょ? 単純なんだから、シータちゃんは」
全身がツギハギの金属で覆われた奇妙な姿の怪人が、ガチャガチャと身体を震わせながらそう言った。その背中から伸びた突起物は、まるで翼のように見えた。
「う、うるさいぞバビロン! ……まあ、図星なのだが。本当に悪かった。つい、気を抑えられず」
「残念だが、ヌシは依頼遂行のメンバーには加えられぬ。代わりに"ゴエティア"を呼ぶことにした。ヌシは拠点へと一時帰還し、そして『総帥』からお叱りを受けるといい、と、このドレークは命令する」
「そ、そんな……」
がっくりと肩を落とすシータ。そんな彼女に顔を近付けたまま、ドレークと呼ばれた竜の怪人は言葉を続ける。
「我ら『夢奏楽団』は、傭兵クラン。どんなクランにも報酬次第で味方する――すなわち、どんなクランとも敵となるのだ。数多の恨みを買っている我らが姿を晒すのは危険である。ゆえに、さあ、『欺変』を使え。増殖した分身たちを呼び戻せ」
「……分かっておる。――『欺変』装着」
懐から天狗のような仮面を取り出したシータは、それを自身の顔に押し当てた。すると、みるみるうちに全身が樹木のようなモノに覆われていき、シータの姿は動く木の怪人のごとき姿へと変化した。
「では、散」
3人の怪人は、それぞれ別の方向へと歩いていき、人混みの中へと消え去っていった。異形の姿であるにも関わらず、誰にも怪しまれないその後ろ姿は、かえって奇妙な光景に見えた。
◆
リベルたちがミトダンジョンを発ってから、数時間が経過した頃のこと。
「よっ、と。頭下げてね。焦らず、ゆっくり」
「……ここ、は?」
椎原ソウの案内を受け、穴のような空間から外に続々と出てくる『白い狼』のメンバーたち。戸惑っている者が多い中、白石レアンだけは顔を真っ青にしていた。
「これでよし、と。うん、アイテム『ワームホール』は便利だねえ。一度来たことがあるダンジョンに、プレイヤーを大量に移動させられる。たとえ、そこに来たことがないプレイヤーでも、ね」
「なあ、椎原さん。なんで、なんで俺らはセンダイダンジョンに呼ばれたんすか……?」
そのレアンの発言に、一同は動揺する。
センダイダンジョン。それは、『呪縛監獄』の名を冠する、最高難易度のAランクダンジョンである。そして、レアンたちの協力相手であり『大罪を背負う者たち』に名を連ねるクラン、『エンヴィー・ユニオン』の本拠地でもある。
「そんなに気構えることないって。特権を失ってミトダンジョンを追われることになった君たちを、このセンダイダンジョンに匿ってあげたんだからさ。ま、これから何をするかは『嫉妬罪王』さん次第にはなるけど、しっかり有効活用してくれると思うよ?」
すたすたと歩き始めた椎原ソウを追い、地下空間のような暗いその場所を歩いていくレアンたち。
しばらく行ったところで、ガスマスクと可愛らしいカエルの帽子を身に付けた怪しい長身の男と遭遇する。
「戻ったんやな、ソウ」
「や、ライ君。あれ、ディアスさんは?」
「ヤツならフクシマダンジョンに向かったべ。協力相手への救援だってよ。あと、罪王様はお休み中だかんな。そこの役立たず共はお前が面倒を見てやれや」
「……相変わらず、適当なエセ方言で話すから君の話は聞き取りにくいよ。その変なキャラ作りやめなよ」
「キャラ作りちゃうわ!」
かすれたしわがれ声で喋ったその男は、ふらりと闇の中に姿を消していった。そんな彼の姿を目にしたレアンは冷や汗が止まらない。
「……『蛙鳴切りの処刑人』蛙田ライ。『堕天魔公』ディアス。三本槍のメンツと名前が、こうもポンポンと出てくるとは……!」
「ビビってるとこ悪いけどさ。君たち、ナビ見てナビ」
椎原ソウに促され、『白い狼』のプレイヤーたちは自身のナビを確認する。その通知欄には、『キャンペーンクエスト』の招待が届いていた。
「なに、これ。『キャンペーンクエスト︰極限の生存競争へようこそ』……?」
「そ。今このセンダイダンジョンで、『キャンペーンクエスト』が行われてるんだよね。これに君たちも参加してほしいの。いい?」
白石レアンたちは、『キャンペーンクエスト』が何かも、これから何をやらされるのかも全く分かっていなかった。
だが、拒否権はなかった。彼らは敗北者であり、匿われている身であり、そして逃げることはできない。恐る恐る、レアンはナビの『参加』のバナーに指を触れるのだった。
[シナーズ・ゲーム TIPS]
『夢奏楽団』︰ポイントの提供などを見返りとして、他クランに雇われて活動を行う傭兵集団クラン。『大罪を背負う者たち』ではないが、互角に渡り合える戦力を保有している。どんなクランとも手を組み、また敵対するため、人から恨みを買いやすい。その対策として、プレイヤーたちは偽名の自称と『欺変』と呼ばれる仮面を装着することによる怪人への変身により、その正体を隠蔽している。




