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[三本槍]


「あ〜あ。メリーちゃん負けちゃった。あんなに強い異能力(デュナミス)使って負けるとか、逆に感心しちゃうなぁ」


 先鋒戦の試合を見届けた、青コーナー・白石レアン側のプレイヤーである椎原ソウがため息混じりに呟いた。一方のレアンは舌打ちをし、貧乏ゆすりをして焦りの感情を顕にしている。


「くそっ、初戦から負けかよ……」


「焦ってるねぇ。ま、それもそうか。彼女の敗北は筋書きになかったかな?」


「……ぐ――」


 白石レアンは、あえて2勝2敗の状況を作ることで互角の試合を演出し、自分の出番である大将戦を盛り上げることを得意としていた。だが、この初戦の敗北は予想外のアクシデント。彼の眉間にシワが寄る。


「うーん、適当にやろうかと思ってたけど、仕方ない。次の試合はそれなりに本気で行こうか」


 ソウはすっと立ち上がり、首と手首足首をぐるぐる回す。次鋒は彼女が出陣するようだ。


「……本気、すか」


「ま、異能力(デュナミス)は見せないよ。あんまりバレたくないからね。ま、私の見立てどおりなら、あの勇者さんと、試合出場を辞退した『無辜の守護団』の『鉄騎鬼神』――近藤サミダレ以外の人ならなんとかなりそうかなー」


 舌なめずりをしながら、試合場へと向かうソウ。そんな彼女の背中を見て、レアンの取り巻きの女の一人が苦言を呈する。


「……なんなの、あの女。なんだか偉そうで、ヤな感じ」


「おい、お前。滅多なコト言うんじゃねぇ。あの人のクラン――いや、そもそもあの人に楯突いたら俺らはおしまいなんだよ」


 冷や汗をかきながら、レアンは女を諌める。彼が椎原ソウに向けている目の色には、常に怯えが浮かんでいた。


「……そうか、お前は新入りだったな。あの人――椎原ソウは、『エンヴィー・ユニオン』の最高幹部……"三本槍"の一人なんだよ。正真正銘のバケモノさ」


「えっ――!? な、なんでそんな人が――」


「知るかよ。ともかく、俺らはこの試合には負けらんねぇ。そこんとこ、しっかり胸に刻んどけよ」


 映像に映る、試合場へ立った椎原ソウの姿。それを睨み、レアンは言った。




「おつかれ、ミズハ! まずはこれで1勝だね」


「……あ、ありがとう、ございます。でもすみません、ちょっと疲れました……。少し、寝ますね」


 先鋒戦に勝利したミズハを出迎えたオレたち。ミズハは疲労困憊の様子で、控室に戻ってきた途端に置かれていたベッドに横たわり、そのまま眠ってしまった。あれだけの激闘だったのだから、仕方ない。ゆっくり休んでほしい。


「何はともあれ大金星だ。あの強力な異能力(デュナミス)を持つ六拝メリーを倒せたのは大きいね。……さて、戦場の修復も終わったようだし、次は僕の番か」


 次鋒戦の準備が整ったようだ。チョウノは立ち上がり、そして彼の武器を手にする。


「……ええと。その武器、なに? 槍?」


「おや、リベル君は知らないのかい? さすまただよ。ヤー!」


 チョウノが手にしたのは、先端が二股に分かれている長い棒状の武器だった。リーチは長そうだが、刃がついていないそんな武器で大丈夫なのだろうか?


「ふふ、心配しているね。安心したまえ、この武器は僕の異能力(デュナミス)と相性がいい。その活躍をとくとご覧に入れて見せようか。……さて、そろそろか。ミズハ君に続き、次鋒チョウノ、行きます」




 やがて、映像にチョウノと、道着の女性が向かい合う光景が映った。あの女性は、昨日の温泉での一件のときにはいなかった人だ。確か、椎原ソウといったか。



「『さあて、試合場の修復が終わったところで次鋒戦! 入場するは、赤コーナー、クランは無所属、チョウノ! ……そしてそれに対するは、青コーナー、クラン『エンヴィー・ユニオン』の"三本槍"の一人! 椎原ソウだァァァッ!!!』」


 椎原ソウは武器を持たず丸腰で、そして鉢巻を目隠しのように巻いていた。丸腰なのはともかく、目を隠しているのはなぜなのだろうか。あれでは、相手の姿が見えないのではないだろうか?


「……待て。三本槍の椎原ソウ? もしや、まさか――」


「ん。彼女のことも知ってるんだな、シータ」


「……まあ、な。ワレの属するクラン『夢奏楽団』は傭兵集団。様々なクランに味方をする。ゆえに、強力なプレイヤーの名は嫌でも耳に入る」


 シータはソウの情報も知っているようだった。だが、先程の六拝メリーのときとは様子が異なっていた。シータは、顔をしかめ、そしてうっすらと戦慄の表情を浮かべていた。


「ワレは、『白い狼(ホワイトウルフ)』という強力なクランと戦えると聞いて貴様に協力した。それほどまでに、ワレは強者との戦いは好みじゃ。けれど、アレは規格外。ワレは、ヤツと戦わないことに安堵すらしている」


 シータがそこまで言う相手とは、椎原ソウ、恐るべしだ。確かに彼女の立ち振舞いからは、戦い慣れていそうな仕草が見て取れた。





「おや。君、目隠しを取らないのかい?」


「あはは。心配してくれるのか、背が高い男の人。気にしなくていいよ。このとおり、君の動きは全て見えているからね」


 ソウを対峙したチョウノは、彼女の目隠しについて指摘するが、どうやらソウはチョウノの姿が見えているらしい発言をする。


「……じゃ、じゃあ今僕は指を何本立ててるでしょうか」


「3本。右指が1本、左指が2本でしょ?」


「せ、正解」


「びっくりした? ま、そういうことだよ。遠慮しないでいいから、本気でかかってきてね? そうしないと――君、死んじゃうかもしれないよ?」


 構えを取りながらソウが言い放った言葉は、普通なら挑発と捉えられてもおかしくはないものだった。だが、その声色は本気で相手の死を案じるものだ。

 


「『試合開始ィィィッ!!』」


 次鋒戦の試合の火蓋が切られた。

 その瞬間。



「速――――」


 

 チョウノが異能力(デュナミス)を使う――いや、そもそも構えるよりも速く。


 椎原ソウは、チョウノの目の前にいた。



「ぐっ――ぐぼぇばぁーーッ!?」


 チョウノが防御を固めようとしたが、間に合わない。

 ソウが繰り出した拳の一撃は、彼の胸部に突き刺さった。それはまるでバットに打たれたボールのように、チョウノの肉体はぶっ飛ばされていった。



「『――――え』」


 目にも止まらぬ速さで飛ばされていったチョウノは、勢いよく観客席に激突。巻き込まれたNPCの何体かが、その衝撃で消滅した。



「『え、ええと。場外につき――勝者は、椎原ソウ!』」


「……ま、マジか――クソっ」


 観客席でふらつきながらも立ち上がったチョウノは、歯をギリギリと噛み締めながら悔しさを顕にする。しかし、負けは負け。場外のため、勝者は椎原ソウとなった。



 

「……へえ」


 勝者となったソウは、己の拳に伝わった衝撃を味わっていた。というのも、チョウノの肉体はソウが拳を当てた瞬間に急激に硬化していた。おそらくは、彼の異能力(デュナミス)だろう。ソウの拳には、じんじんという痛みが残っている。


「私の一撃を受けて立ち上がれるとはね。これが試合なんていう、ヌルい戦いじゃなければもう少し楽しめたのになぁ。……『勇者一行(ヒーローパーティ)』、なかなかワクワクさせてくれるじゃんか」


 満面の笑みを浮かべたソウは、試合場を後にする。その笑みは、まるで獲物を見つけた肉食動物のごときものだった。



 次鋒戦

 チョウノ VS 『凶拳夜叉』椎原ソウ


 勝者 椎原ソウ(チョウノ場外押し出し)

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『三本槍』︰クラン『エンヴィー・ユニオン』における最高幹部のプレイヤーに与えられた称号。クラン『白い狼(ホワイトウルフ)』に派遣されてきた"凶拳夜叉"の異名を持つ椎原ソウを始めとする、"堕天魔公"と"蛙鳴切りの処刑人"の3人が三本槍に名を連ねる。

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