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[思わぬ再会]


「……マジか。なんだよ、今の闇は。アイツ――白石レアンの異能力(デュナミス)か? なんも見えなかったなぁ。リベルくんはなんか見えたか?」


 サミダレの質問に、オレは黙って首を横に振る。

 今の試合で、白石レアンは会場に闇をもたらした。星1つない夜のような暗闇の中で、誰にも見えないうちに彼は決着をつけてしまったのだった。


「マヤさんはどうでした? 『全知(オムニシエント)』の力を使ってたみたいでしたけど」


「ダメ。私の能力は、ちゃんとこの眼で見なきゃ発動できないからね。白石レアンのことを視認できてない以上、なーんも分かんなかった」


 肩をすくめ、ため息をつくマヤ。マヤの異能力(デュナミス)でも駄目ならば、レアンが何をしたのか認識できる者はいないだろう。

 あの男――白石レアンはこうやって、自身の能力を隠蔽してきたに違いない。11戦も試合に参加しながらも、今だ"チャンピオン"でいられるのはそのおかげか。


「まあ、単純に考えれば白石レアンは『周囲を暗くする能力』なんだろうが、それなら『1分間で決着がついた』のが妙だ。見たところ、レアンは武器を所持してないようだった。つまり、あいつは徒手空拳で相手をノックアウトしたことになる」


 サミダレの言うとおりだ。

 闇に包まれたあの1分間、銃声や金属音といった、武器類を扱う音は一切しなかった。聞こえたのは打撃の音だけ。しかし、残る命の火(ライフメーター)があるオレたちプレイヤーにとって気を失う要因は、激痛に耐えきれなくなったときのみ。銃弾数発分に匹敵する威力の攻撃をレアンが繰り出せるのなら、素手で相手の気を失わせることも可能かもしれないが、実際には考えにくい。


「たぶん、レアンの能力は他にも効果があるんだと思う。……ま、ここでこうやって能力の考察をしてても埒が明かないよ。そろそろ移動しよう」


 いつの間にか、観客席からはほぼ人がいなくなっていた。どうやら今日の試合は全て終わってしまったようだし、ここに長居する理由はない。


「さて、どうするよ? 今から試合参加の申請を出しても、実際に戦うのは明日だ。焦ってあと1人のメンバーを探す必要はなさそうだが」


「いや、ちょっと待ってサミダレさん。ねえ皆、これ見てよ、これ」


 マヤが、手にしているパンフレットを指差す。そこには、『試合参加者は宿泊施設利用可能!』という文言がでかでかと表記されていて、さらに"食べ放題バイキング"とか、"温泉施設"とかの説明が続いていた。


「……これ、行きたくない?」


「す、凄い! バイキングはともかく、温泉があるダンジョンなんて見たことないぜ、俺! こんなサービス施設まであるなんて、ミトダンジョン恐るべし……」


「でも待ってください。『試合参加者は』ってことは、もし参加の申請をしないと――」


「野宿だね」


「のじゅく!?」


 一斉に、顔を見つめ合わせるオレたち。

 温泉付きの宿泊施設に泊まれるか、野宿か。

 今日中にあと1人のメンバーを集めて、試合参加の申請をできるかどうかに、極楽行きの切符がかかっている。


「試合の申請できるのは、いつまでですか!?」


「あと1時間以内!」


「あわわ、それなら急がないと!」


 観客席の座席から立ち上がり、あと1人のメンバーを探すためにあたふたしながら走り出そうとするミズハ。そんな彼女の目の前に、1人の男性が立っていて、思わずぶつかりそうになってしまう。


「わ! す、すみません!」


「おっと、こちらこそすまない、百済ミズハ君。驚かすつもりはなかったんだ。皆が熱中して話しているものだから、話しかけるタイミングを見失ってしまっていてね。……やあ、勇者リベル君。久しぶりだ」


 オレに視線を向け、親しげに話しかけてくるその青年は、華奢で背高な体格と緑色の髪が特徴的な人だった。羽織っているコートの隙間から、下に和服を着ているのが見える。その独特な雰囲気をまとう青年に、オレは全く見覚えがない。誰だろうか?


「えっと……君は――?」


「ああ、()()姿()で会うのは初めてか。僕だよ。()()()()さ。久しぶりだね、リベル君」


「えっ――。……えええっ??」

 


 チョウノ。

 その名前に、聞き覚えはある。トウキョウダンジョンの地下迷宮で遭遇した、不思議な性格の少女の名前だ。甚平を着用し、眼鏡に尋常ではない好意を見せる、頭は切れるがうっかりした性格で、戦闘能力はない小柄な少女の名前。いやでも、彼女は確か女性だったはずなのだが――。

 

 いや待て。

 そうだ。確かにあのとき、チョウノは自分のことを『本来は男性だ』と言っていた。まさか本当だったなんて。では、今の目の前にいる青年こそが、本物のチョウノということなのだろうか。


「あー! あなた、スプリガンになった山東キョウカと戦ったときに、私の背後に突然現れて助けてくれた人でしょ!? あれ、でも女性の声だったような……」


「やあ、岸灘マヤ君。こうして顔を合わせて話すのは初めてか。僕は男性の姿と女性の姿、その2つがあってね。ま、いろいろ事情があるのさ。……そして君がアカツキ君か。可愛らしいネコちゃんだ」


「ネコじゃねーよ。ボケ」


「あはは毒舌ゥー!」


 チョウノは、NPCの昆虫たちと会話をすることができる。それによってトウキョウダンジョンではほぼ全ての情報を手に入れることができ、そのためにマヤやミズハ、アカツキのことも知っているのだろう。

 だがここには、トウキョウダンジョンではいなかった仲間が増えている。


「そして君は――。君は……君は…………えっと、だれぇ?」


「俺は近藤サミダレ。クラン『無辜の守護団』のプレイヤーで、今は『勇者一行(ヒーローパーティ)』のリベルくんたちと同行させてもらってる。チョウノとか言ったっけか? よろしくな!」


「おお、よろしく。僕はクランに入ってない、無所属のプレイヤーだからね。ある時は『無辜の守護団』にお世話になった。その恩を返せるよう、ここで協力させてほしい」


「協力……? ってことは――」


「僕を君たちの、試合のメンバーに加えてほしい」


 チョウノは、オレたちが探していたあと1人のメンバーとしてチームに加わることを提案してくれた。願ってもない、ありがたい提案なのだが、1つ懸念点がある。


「チョウノ、君、戦えたっけ?」


「ふふ。それは当然の疑問だよね。でも安心してほしい。男の僕には、戦闘能力がある。もちろん、異能力(デュナミス)も、ね」


 チョウノは自信満々にそう言った。性別によって戦闘能力にそんな差が出るだろうか、と不思議に思ったが、彼の自信げな表情には期待ができそうだ。申請の締め切りまでもあまり時間がないし、チョウノをメンバーに加えて試合に臨むことになった。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


『ポイント』︰主に『アイテム』の購入に使用される、シナーズ・ゲームのゲーム内通貨。エネミーの撃破やプレイヤーとの戦闘の勝利、その他ダンジョンにおけるイベントなどで獲得できる。目安として、エネミー撃破では1ポイント獲得、プレイヤーとの戦闘勝利では2ポイント獲得、ミトダンジョンでの試合勝利ではチームメンバー全員が15ポイント獲得できる。また、ポイントをプレイヤーの間で贈与することも可能。

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