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[挑戦・明けの光彩]


「よぉよぉよぉよぉ。お待た〜。俺様の力が必要なんだってぇ?」


 チバダンジョンの入り口にて、キャップ帽子を被りサングラスをかけた、ド派手なファッションの男が『疾走の暗殺団(スプリント・キラーズ)』のメンバーに迎えられていた。


「そうっす。『払暁の勇者』をぶっ殺すために、タタキさんに力を貸してほしいんす」


 クラン『疾走の暗殺団(スプリント・キラーズ)』のリーダーであるその男の名は、石突(イシヅキ)タタキ。クランのメンバーから頼みを受け、はるばるこのチバダンジョンへと戻ってきた。


「行動停止のアリさん使っても無理だったんだ。ふぅ〜ん。で、俺様に何してほしいワケ?」


「勇者は、このダンジョンを女連れて攻略してます。その女をタタキさんの異能力(デュナミス)で操って、勇者をやっちまってほしいんですよ」


「勇者は正義のミカタ! 罪なき人間に手は出せナイナイ!」


 男たちは、リベルと共に行動しているアルヴォレアに目をつけた。彼女を操り、リベルを暗殺させる、というのが彼らの計画のようだ。


「なるポンだねぇ〜。ちな、勇者は操れなさそう?」


「たぶん無理ッス。あいつ毒薬効かなかったんで、そういう系の耐性あるッス。たぶん」


「おけおけ。そんじゃ、ちゃちゃっとやっちゃいますかねぇ!」


 タタキは余裕綽々な様子で、ふらふらと仲間の案内に付いていく。

 彼の異能力は、『催眠(ヒプノーシス)』。対象の人間に暗示をかけ、意のままに操ることができる能力である。



 


「……まだかなー」


 観覧車から降りた直後、リベルは急激な腹痛に襲われた。おそらく、仕込まれた毒薬が今になって効き始めたのだろう。魔術によって痛みを抑えたものの、毒物を体外に排出する必要があったので、リベルはトイレに駆け込んだ。彼を待っている間、アルヴォレアは一人ぽつんと噴水の縁に座っている。


「もしもし、そこのねーちゃん」


 そんなアルヴォレアに、タタキは近付く。気安い様子で話しかけてくるタタキに、アルヴォレアは不快そうな表情を示した。


「なんだオマエは」


「暇? 暇なら俺様と遊ばなうぃ? なんちて」


「あ? 殺されたいのか――じゃなかった。ワタシ、連れがいるんだ。オマエなんかに構ってる暇はないんだよ」


「そ。んじゃ、言うこと聞いてネ〜『催眠(ヒプノーシス)』っと」


「っ……!?」


 タタキと目を合わせたアルヴォレアから、意志が奪われていく。その能力を受けた今、彼女はタタキの命令を聞く従順な道具へと成り下がってしまった。


「……なにをすれば?」


「勇者ちゃん、殺してきてネ。そしたらご褒美でいっぱい遊んであげるから」


「分かりました」


 指示を受けたアルヴォレアは、虚ろな目で頷いた。ひゅう、と口笛を吹き、タタキは退散する。

 その直後、毒物を排出し終えたリベルが戻ってきた。




「ごめん、お待たせ」


 用を足したオレは、噴水で待っていてくれたアルさんの元へと急いだ。なんだか急に腹痛がしてきたため急いでトイレに急いだが、アルさんには申し訳ないことをしてしまったな。待たせてしまい、すまない気分でいっぱいだ。


「……行こう」


 アルさんの口調は、ややそっけなく聞こえた。やっぱり少し怒っているかもしれない。ここは、最後のアトラクションで楽しませて挽回しなくては。


「ちなみに、最後のアトラクションはどこに行くんだ?」


「あそこだ。"バチバチ・コロシアム"。あれにしよう」


 アルさんが指差したアトラクションは、コロシアム――闘技場か。つまりは、何かと戦うのだろうか?


「あれは、プレイヤー2人が戦うアトラクションだ。……安心してほしい。場外負けがあり、どちらか一人が場外になればそれで二人ともクリア扱いだ。八百長試合で構わないなんて楽だろう?」


「なるほど。でも、最後がそんなアトラクションでいいのか? もっと楽しそうなのがありそうだけど」


「いや、それでいい。勝負が適当でいいとしても、ワタシは勇者の実力を確認したい。手合わせ願えるか?」


 アルさんは、オレと戦うことを望んでいるようだ。それが彼女の望みだというのなら、オレはそれに応えるのみ。


「分かった。それじゃ、行こう」




 アトラクション、"バチバチ・コロシアム"は四方にある水の溜まった堀に囲まれた闘技場で、おそらくはこの水へ落下したら場外ということになるのだろう。戦場はほどほどの広さで、一対一の戦いなら充分なスペースだ。


「本気できてくれ、勇者」


「分かった。それじゃ、始めよう」


 誰も観客がいない闘技場で、オレは棒立ちのアルさんに接近し、剣を振り下ろした。寸前までアルさんは全く避ける様子がなく、オレはやや躊躇してしまった。

 だが、実際に振り下ろされた剣は空を斬ることとなる。


「……おい。言っただろう、本気でやれと」


「ぐぁッ……!?」


 いつの間にか背後に潜り込んでいたアルさんが、オレのみぞおちへ強烈な蹴りを食らわせてきた。バランスを崩しそうになるも体勢を整え、一旦距離を取った。


「ごめん。少し手抜いてた」


「分かってる。次、嘘ついたら許さない」


 アルさんも、おそらくはオレと同じ世界の住人だ。魔術の威力は理解しているだろうし、それにオレの実力も承知の上でこの戦いを望んだのだろう。それなら、手を抜く必要は全くない。


「切り裂け――『疾風魔導(ルア・フゥ・ヴィント)』!」


 オレが繰り出した斬撃を、アルさんは最小限の動きで身をよじらせ、回避する。そのままこちらへと距離を詰めてきたため、オレは応戦の姿勢に入る。


「……速い!」


 アルさんは徒手空拳にも関わらず、剣を使うオレの間合いの中へと潜り込み、的確な攻撃を繰り出してきた。大剣では取り回しが悪いため、一時的に剣を捨てオレも拳で対抗する。

 アルさんの拳や蹴りは、その体格からは予想できないほどに重く、強かった。防御しているにも関わらず、肉や骨が悲鳴を上げる衝撃。急所に入ったら間違いなく気を失ってしまう。


「……なるほど。身体能力はこの程度か。それじゃ、火力はどう?」


 アルさんは一度後退し、距離を取った。かと思えば、右手を突き出した独特の構えを取っている。


「魔術か!?」


 再び剣を取り、オレも魔力を溜め込んでいく。防御の魔術を展開する手段もあったが、しかし直感がそれを否定していた。全力で応戦しなければ無事ではすまないという勘があったため、その感覚を信じることにした。


「これなるは龍。世界を砕き、唯我独尊の如く天を翔ける龍神そのもの! こわせ、龍の息吹――『白龍神の怨祝ヴァイス・シュヴェルト』ッ!」


「……消え失せろ」


 龍を模した、高密度の魔力の光。剣から打ち出されたその莫大なエネルギーは、大地をえぐり取りながらアルさんへと迫る。

 一方のアルさんも、手からなにか光線のようなものを打ち出したのが薄っすらと見えた。だが、それがどんな魔術だったのかは確認できなかった。


 

 なぜなら、勝負が一瞬でついてしまったからだ。



「……え?」

 


 オレが放った龍の光は、あっという間に雲散霧消してしまった。アルさんの放った光線の前に撃ち抜かれ、かき消され、吹き飛ばされてしまった。

 幸いにも、そのエネルギーの衝突によって光線の軌道がそれたためにオレが被害を受けることはなかった。しかし、そのあまりの衝撃で闘技場は破壊され、その原型をとどめてはいなかった。


「チェックメイト」


 その光景に呆然としている暇もなく、アルさんは目前へと迫っていた。防御するよりも早く、その拳がオレの胸部へと突き刺さる。


 


 ……負けた。


 気付けばオレの身体は水に浸かっていた。ぶっ飛ばされ、場外へと落とされたのだ。信じられなかったが、信じざるを得ない。アルさんはオレよりもはるかに強かった。


「……っ――!?」


 闘技場の上へと戻ろうとしたオレは、かがみ込んでこちらを見ているアルさんと目があった。彼女の目は冷淡なもので、そんな彼女が伸ばした手に首を握られ、へし折られてしまうかのような錯覚に陥った。



 

「何してるんだ? ほら、手を掴んで。アトラクションは終わりだぞ」


 かと思えば、彼女はにっこり笑った。その笑顔を見て緊張がほどける。全く、オレは何を考えていたのか。アルさんがオレに危害を加えようとするはずがないだろうに。


「強いね、アルさん。……負けちゃったよ」


「まあ、そうだな。でも安心しろ。勇者は生前よりもやや弱くなっているようだ。前のあなたの強さは、こんなものじゃなかった」


「……そうなの?」


 実感はないが、どうやらオレは生前よりもやや弱くなってしまっているらしい。もしかすれば魔術の火力が落ちたりしてしまっているのだろうか?

 とはいえ、負けは負け。今のオレは割と気持ちがへこんでいる。女性の前でいいところを見せられないとこんなに気落ちしてしまうものなのか。

 まあ、勝負はついた。これでチバダンジョンはクリアだ。気持ちを切り替え、まずはこのダンジョンを出ようか。今は先を急がなくてはならないのだから。

[シナーズ・ゲーム TIPS]


催眠(ヒプノーシス)』︰プレイヤー・石突タタキが使用する異能力(デュナミス)。目を合わせた相手に暗示をかけ、命令を強制させることができる。ただし、回数を重ねるごとに暗示はかかりにくくなる。また、精神力による抵抗も可能。しかし、一度与えられた暗示による命令は遂行するまで解除はされないはずのため、アルヴォレアが途中で正気に戻った理由は不明。

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