[奇妙な点]
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「…………」
「ひぇええええええええええええええええええぎゃぁうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあばばばばばばばばばぁ!!!!!!」
「……うるっさ」
2番目に参加するアトラクションを"大絶叫ジェットコースター"にしたマヤとサミダレは、縦横無尽にかけ巡る超高速のコースターに乗ることとなった。その安全バーのロックは非常に緩く、目の前にあるハンドルをしっかりと握って綺麗な姿勢を保たなければ、コースターから投げ出されてしまう仕組みになっていた。遊園地であってもここはダンジョン。アトラクションによっては死の危険があるものも少なくない。
まあ、マヤにとってはその恐怖よりも隣に座るサミダレの絶叫のほうが問題だったのだが。
「……いき、てるぅぅぅ。ああ、生きてるって素晴らしい!」
「まあ、私たちプレイヤーは生きてるとも死んでるとも言えない微妙な状態だけど。ふう、うるさすぎて集中力切れるかと思った」
なんとか無事に生還した2人は、近くのベンチに座って一端の休憩を取っていた。サミダレは死人のような顔色で天を仰いでいる。アトラクションに乗る前の余裕綽々な顔、コースターに乗り込む直前の青ざめた顔、乗っている間の絶叫している顔、そして現在の顔、とこれまでのサミダレの顔色を思い返し比べたマヤは、信号機みたいだな、という感想を彼に抱いた。
「サミダレさん、落ち着いてからでいいからさっきの話の続き、いい?」
「あー、ああ。確か『7年前の大事変』の話だったよな」
ジェットコースターの入口へ進むまでの間、サミダレはマヤにシナーズ・ゲームの奇妙な点が発覚するきっかけとなった出来事、『7年前の大事変』について話していた。
「うん、そう。シナーズ・ゲーム内の時間経過で7年前に、ほぼ全てのクランがトウキョウダンジョンに集まって、各勢力が入り乱れる大きな戦いがあったんでしょ?」
『7年前の大事変』。
それは、当時のシナーズ・ゲームのプレイヤーの半数がゲームオーバーになったという、トウキョウダンジョンで起こった大規模な抗争だった。あらゆる勢力を巻き込んだその戦いがあったことを、マヤはサミダレに教えてもらった。
プレイヤーは肉体が成長することも、衰えることもない。基本的にはゲームに参加したときの状態のままだ。
サミダレによると確認されている最古参のプレイヤーがゲームへと参加したのが10年前だったそうなので、『7年前の大事変』が発生したのはシナーズ・ゲームが開幕してから3年後の出来事であったと考えられる。
「そ。で、そのゴタゴタの中でさ、50のダンジョンタイトルを集めたとあるプレイヤーがいたんだ。ダンジョンタイトルを集めたその人は、『トウキョウエキへ向かえ』という最後の指示を受け取った。指示通りトウキョウエキへと向かうその人を、『無辜の守護団』は援護した」
「それはなぜ?」
「そのプレイヤーに借りがあった、てのもあるけど。一番は、ちゃんと生き返るプレイヤーがいるところを見てみたかったんだろうな。その時オレはまだ『無辜の守護団』にはいなかったから話に聞いただけだけどさ」
「ふうん。それで?」
ここで話が終わっていたなら、別におかしなところはない。そのプレイヤーがトウキョウエキへと辿り着いて生き返ったのなら、このシナーズ・ゲームに疑問など抱かないだろう。
つまりは、そうならなかったということだ。
「……5年前、俺たちはそのプレイヤーと再会した」
「ってことは、その人生き返れなかったの?」
「それは違うらしい。そのプレイヤーは多くを語ってはくれなかったが、最低限教えてくれたことがある。それは、『50のダンジョンタイトルを集めれば、生き返ることができる。しかし、シナーズ・ゲームから逃れることはできない』ということだ」
ぞくり、とマヤの背筋に悪寒が走る。
生き返れても、ゲームから逃れることはできない。シナーズ・ゲームというこの悪夢から覚めることはできい、ということだ。
「……嘘は言っていないわな。人生はやり直すことができたんだからさ。シナーズ・ゲームに縛られての人生、にはなるが」
「ふざけるな……! このゲームに囚われたままなら、生き返っても意味がないじゃんか……!」
「その人は、どうやら現実世界とダンジョンを行き来することができる――いや、行き来しなきゃいけないようだった。でも何かしら制約があるようで、その人から得られた情報はそれだけ。果たして、ゲームをクリアした人間は何をさせられているのか? それを知るために、俺たちはこのシナーズ・ゲームに隠された"裏"を探すことを決めたのさ」
マヤはサミダレたち『無辜の守護団』が、シナーズ・ゲームに対して不信感を抱いていることに納得した。
「あなたたちはこのシナーズ・ゲームには『プレイヤーが生き返るためのゲーム』ではない、別の本当の目的があると考えているってこと? 私たちプレイヤーには隠された、"裏"の目的が」
「話が早くて助かるぜ。そういうことだ。……けどさ、知っての通りゲームの運営者は姿を全然見せないだろ? ガ・イドに問い詰めても知らぬ存ぜぬの一点張り。俺たちは困り果てた」
マヤたちもトウキョウダンジョンを出る際に言われたとおり、ガ・イドはいちプログラムにすぎず、シナーズ・ゲームの情報を何も有していない。そもそもゲームの運営者自体がこの空間にいるのか怪しい。プレイヤーである以上、遭遇することはできないのではないかとマヤは訝しむ。
「だからここで、俺たちは着眼点を変えることにした。このゲームに、他に怪しいトコはないか、ってな」
「他の怪しい所……。何があったの?」
「なあ、考えてみろよ。このゲーム、こんなに怪しいんだぜ? ……それなのに、なぜ他のプレイヤーは疑っていないんだ?」
「……!」
なるほど、とマヤは理解する。
他のクラン、特に『強欲の帝国』などの巨大なクランなら、ゲームをクリアして生き返ったプレイヤーが何人かいてもおかしくない。そして生き返ったプレイヤーがいるのなら、このゲームの奇妙な点にも気付くはずだ。
「ほとんどのクランがこのゲームを疑っていないのはさ、クリアしたプレイヤーなんてそうそういないし、まだ納得もできる。けど、絶対にゲームの奇妙なトコを把握しているだろうにも関わらず、知らない素振りをしている怪しげなクランがいくつかあった。確実に、ヤツらはゲームの"裏"と関わりがあるに違いない」
「それって――」
「ゲームニュースをよく見てるなら知ってると思う。……このシナーズ・ゲームにおいて、最大級の勢力を誇る七つのクラン。通称『大罪を背負う者たち』。ヤツらこそ、このゲームの謎の鍵を握っているに違いない」
[シナーズ・ゲーム TIPS]
『7年前の大事変』︰シナーズ・ゲーム内の時間経過で7年前に、トウキョウダンジョンで発生した大規模な抗争。ほとんどのクランがこの争いに巻き込まれ、当時のプレイヤーのうち半数がゲームオーバーになる事態となった。この戦いを生き延びたプレイヤーは、そうでないプレイヤーより実力者である場合が多く、各有力クランの幹部はたいてい、この戦いを経験している。




